2021.12.16

地物の恵みを一皿一皿に表現する
DANLO第2章の挑戦

諏訪市内で16年間営業してきた『イタリア田舎料理 DANLO(ダンロ)』が2021年4月、店名も新たに『Ristorante DANLO』として原村に移転オープン、第2章の挑戦が始まりました。こだわりの素材を活かしたシェフの奥深い料理と、ゲストの心を読み尽くしたサービスを提供するマダムが創り上げる空間は、多くの人の胃袋と心を鷲掴みにしてきました。今回、移転という思い切った決断に至った松本武さん・明子さんご夫妻の思いを伺ってきました。

原村に移転オープンした新店舗「Ristorante DANLO」外観 写真提供:松本さん

第1章 イタリア田舎料理 DANLO (2005.10~2021.3)

Q. 初めに諏訪でお店をOPENしたときのことを教えてください。

明子さん/夫であるシェフは都内のイタリアンレストランで10年間修行し、私もそこで働いていて出会いました。埼玉県出身のシェフは自然が身近にない環境で育ったんですが、子どもの頃に時々お父さんに連れられて川で魚を捕ったり、きのこを採ったりした体験がとても印象に残っていて、どこかルーツ的に山を求めているところがあって・・・。結婚を機に、自然豊かな場所で開業したいというシェフの漠然とした理想があり、私の故郷、諏訪でということになったんです。

接客担当の松本明子さん

自然が身近な場所をイメージしていたので、最初は蓼科などで物件を探して回ったんですが、なかなか見つからなくて。結局、諏訪市内の繁華街にある物件にたどり着きました。シェフは、せっかく信州に来たのにこんな街中じゃあ全然ピンと来ないと言っていたけれど(笑)、私は「ここでしょ!」と。そこでやっていくイメージが湧いたんです。

旧店舗(諏訪市)の外観/写真提供:松本さん

諏訪で店を構えてやっていく中で、豚や野菜などのいろいろな生産者さんとの太い繋がりができました。近くには酒蔵もあるので、蔵の人たちと知り合ううちに、イタリアンに日本酒も意外に寄り添えるというヒントをいただきましたし、少し足を延ばせばきのこを採りに行けることも知りました。16年間で地元ならではの繋がりができて、諏訪の地で、私たちが目指すイタリアンを少しずつ地元の方たちに知っていただけたのかなあと実感することができました。

旧店舗で行われたイベントの様子。
諏訪の酒蔵「酒ぬのや 本金酒造」の日本酒とDANLOの料理のコラボレーションイベント  写真提供:松本さん 

Q. 移転を考えたきっかけは?

明子さん/子どもが生まれて、生活スタイルを見直さざるを得なくなったのがきっかけです。子育てと仕事を両立するスタイルは何かと考えたときに、営業を昼メインにして夜は予約だけにすれば、保育園に通う子どもたちとの時間が作りやすくなる。繁華街だと夜遅くまで営業しているお店が多いので、営業時間を必然と長くせざるをえないのですが、山の中だと規則正しい生活リズムで過ごす方が多く、自然に近い時間軸で暮らせると思ったんです。そういう生活を叶えるためにはどこがベストだろう?と話し合って、結局、シェフが最初に「店を構えるなら自然と共にある場所に」と思い描いていたイメージに戻ったんですよね。この話をした翌日にはもう、シェフが早速不動産屋に行っていました(笑)

Q. DANLOという名前の由来は?

明子さん/最初の店の物件を探し始めた頃、お勧めされた物件を見に行ったら、そこに暖炉があったんです。私たちは最初そこでやる気満々で、ここでやるなら「暖炉っていう名前にしたらいいね」と話していました。

諏訪の店では、肉の塊をドンと出してみんなで食べてもらうような料理をやりたくて、名前の音の響きと料理が合うようにしたいと思っていました。そんな、骨太で男性的な料理のイメージで考えているときに、前に思い浮かんだ「暖炉=DANLO」がいいかもしれないと思ったんです。さらに寒い地域なので、この店が暖炉のようにみなさんに囲んでいただいてほっとくつろげる場所になるように、という思いも込めました。

■DANLOならではの料理

Q. DANLOの料理をひと言で表すと?

明子さん/「地元の季節の恵みを召し上がっていただく料理」ですかね。うちはイタリアンと称していますが、いわゆる多くの人がイメージするイタリアンとはちょっと違うのかもしれません。その時その時の旬の食材や地元の素材を使っているので、通年でイタリアンの定番であるマルゲリータやカルボナーラを出しますよ、というメニューにはなっていません。

イタリアでは、地方の食材を大事に扱った料理が色濃く残っています。トスカーナ地方はトスカーナ料理、ピエモンテ地方ならピエモンテ料理というように。それを私たちは日本で、ここ原村でやっている。このあたりの食材をいま活かすとこういう料理になりましたよ、というスタイルでやっていきたい。私たちが考える「イタリアン」とは、そういう捉え方なんです。

「天然タマゴダケ クラフティサレ ~天然きのこのソースにイタリア産のトリュフがけ~」
「南信州産 黒豚バラ肉香草パン粉焼き~季節のお野菜を添えて~」
「信州産ポルチーニ茸とイタリア栗のリゾット」

Q. お二人が自ら採ったきのこの料理も人気だとか。

明子さん/とにかくきのこはおもしろい! きのこ採りは、諏訪の店をオープンしてすぐ興味をもち始めたんです。ある市場で「ヤマドリダケ」として売られているきのこを見ていたときに、売り場のおじさんに「これ、ポルチーニのことだよ」と教えてもらって、そこから目の色が変わりましたね。えー!このあたりでポルチーニが採れるんだー!って。そこから本腰入れて勉強し始めて、きのこ好きが集まる勉強会のきのこの会にも入会しました。会のおじさんに、「きのこだけ見ていてはだめだ! 木を知らなければきのこは採れない!」と言われれば、木の事典を買って、どの木に何のきのこが生えてくるのかを学んで。そうやって徐々に覚えて林を見ると、なんとなくここにはあれがありそう、という目が養われてくるんです。知れば知るほどおもしろくて、自分たちで採れるようになるとたまらなく楽しいんですよ。

写真提供:松本さん

知識と経験と勘を総動員しても、そこにあるかどうかは分からない。その瞬間にしか出合えないものをうまく当てて、自分で採集したもので料理ができる。それをお客さまに出せる喜び。この感覚はきのこならではだと思います。「ご馳走」の元々の意味は、大事なお客さまをもてなすために、食材を集めるのに奔走するということらしいのですが、まさにそれですよね。季節のご馳走でもてなす。そういうことができていることがとても嬉しいんです。

ある日の大収穫/写真提供:松本さん

私たちのきのこ愛は、新店舗の新しいロゴマークにも表れています。ここは歩いて通る場所ではないので、車で通ったときにパッと見てレストランと分かるマークを考えて、そこにうまくきのこを入れようと、シェフがデザインしました。

ヨーロッパで見かけたレストランマークを参考にデザインした新ロゴ。よくよく見ると、きのこの形が見える。

第2章 Ristorante DANLO (2021.4~)

Q. 新しいお店になって変わったことは?

明子さん/諏訪の店では、アラカルトメニューの中からお客さまが食べたいものを選ぶスタイルがメインでしたが、原村の店ではコースメニューだけに絞りました。一品一品に集中して季節を表現し、それをそのまま味わっていただきたいと。「今はぜひこれを食べて!」というものを食べてもらえる店にしていこうと思っています。

諏訪で営業していた16年間、経験値を積んで、多くの生産者さんに出会って、今だったらそういう表現や提案ができるんじゃないか、お客さまの想像を超えるようなアプローチをしていく段階にきたんじゃないかと思うんです。諏訪での16年があったから脱皮できたんです。

Q. 外装や店内の空間作りにもこだわりを感じます

明子さん/そうですね。森の中にあって、「何これ?」と人目を引くような外装にしたいというのがまずありました。かつ、全体的にシンプルな建物にしたいというイメージはあったんですが、そうそう設計士さんの知り合いはいないし、誰に頼むのがいいのか見当がつかなくて・・・。友人が建てた家がシンプルで素敵だったので、その設計士さんを紹介してもらいました。そして、まだこの土地が候補の1つだったときに、その設計士さんに見てもらったんです。「ここだったらどうでしょう?」と聞いたら、「イメージ湧くなあ」といううれしいお答えだったので、じゃあここに決めようと契約しました。

設計士さんが練ってくださったプランはすべてが理にかなっていて、計算し尽くされていました。使えるスペースをめいっぱい活かした間取り。隣の席のことが互いに気にならないような間合い。そして、窓を大きく取ることで、もうそれだけで絵を飾る必要なんてないくらいの眺望。どういう空間だとお客さまが落ち着くかということをしっかり想像してくれていました。表から見たときに、中の様子が想像できないというのもワクワク度を高めますよね。ドアを開けたときにパーンと視界が開けて、まず林が目に入る。「なんか素敵」って、お客さまのテンションが上がる。このあたりは別荘にお住まいの方が多くて、建築に詳しいお客さまもいらっしゃいますが、そういう方さえも建築で驚かせたいという気持ちがあったんです。そんな私たちの想いを、設計士さんが叶えてくれました。

Q. ここでの営業を始めて、手応えはどうですか?

明子さん/お客さまの反応がとてもビビッドで、驚いています。こんな場所にあるので、ちょっとふらっと立ち寄るというよりも、ここに食べに来ることをその日の目的にして、料理を楽しもうと意気込んでいらっしゃる。この食材は何? どこの物? このお料理どうやって作っているの?と、お客さまから料理そのものに関する質問や感想をいただくことがぐっと増えました。私たちが表現したものを読み取ってくださっている手応えを感じます。

それがよいプレッシャーにもなって、どの食材を使ってどうしようかなと、こちらもより真剣に想像して応えようと思いますよね。そうして生まれていく料理がお客さまに喜んでいただけるとこちらもやりがいを感じて・・・、というように相乗効果で高めていただいている喜びを感じています。

ちょっとおしゃれをして、日常から離れた“特別な時間”を楽しんでもらえるような料理・空間に。今後も磨いていきます。

DANLOが追求するサービス

Q. 行き届いたサービスを提供するために心がけていることは?

明子さん/必ずシェフと2人でミーティングの時間を設けて、翌日のプランを練るようにしています。予約の入っているお客さまについて、まずそれぞれどういう集まりでいらっしゃるか、記念日なのか、カップルでいらっしゃるのか、家族でいらっしゃるのか・・・を確認します。そして、過去にお客さまが召し上がったメニューの記録を確認しながら、このお客さまは●回目で先週もいらっしゃっているからこの料理じゃないものに、この方はこの食材が食べられないからこれにしようなど、それぞれのお客さまに対してどういう素材でどんな料理にするかを話し合うんです。こんな感じなので、一応コースの内容を決めてはあるんですが、同じコースでも、お客さまの状況によってちょっと違う内容になっていることがあります。それをやらないでいると、やっぱり満足度の低いものになってしまうんですよね。

前は夜の営業が終わった後、子どもたちがなかなか寝ない中でミーティングをやっていたんです。当然、全然はかどらないし、子どもを寝かせているうちに私が寝ちゃって、大してミーティングがやれていないという状況に・・・。するとやっぱり、「ああ、あのお客さまにこうしていればよかった」と悔やむようなことが出てきてしまうんですよね。だから、ミーティングをちゃんとやろうと。夜はやめて、昼のまかないを食べてからミーティングをすることにしました。ここさえちゃんとやっておけば、8割方できた!というような感覚です。

新しい店では、お客さまが食べるものを私たちがご提案・ご提供するということを自分たちに課しています。それはお客さま側からすると、出てきたものを食べるしかないということ。私たちは、お客さまに、お金を払っていただく以上に満足して帰っていただきたいと思っています。そのためにいかに準備をするかを常に意識しています。

Q. お二人のその見事なチームワークがあってこそのDANLOなんですね。

武さん/独りよがりでやっていると、店のバランスが悪くなっていくんですよね。そういうのってお客さまにも伝わってしまうと思うんです。うちの強みは、そこのバランスを妻・マダムがうまく取ってくれていること。一人で料理を考えるのは限界があるけれど、お客さまと接しているマダムが「このお客さまにはこういうのがいいと思う」と伝えてくれて、それを僕が形にしてお客さまに返す。そうするとちょっと新しい風が吹いて、今までにないような料理が生まれたりするというような、いい循環ができてきます。二人でそうやってすり合わせていくことが大事なんだと思います。

明子さん/振り返ってみれば、16年間やってきてようやくこういうスタイルができるようになったなあと。お客さまに育てていただいたおかげです。

Q:新しいお店では、マダムの弟さんもスタッフに加わったとか

明子さん/そうなんです。時々息子さんですかと聞かれますけどね、弟ですよ(笑)。スタッフが増えて私が全体をよく見れるようになり、お客さまの様子をより察知してフォローできるようになりました。リストランテになったということは、これまで以上にレストランとしての時間、空気を楽しんでもらうということ。私たちがバタバタしているとお客さまにゆったりしていただけないですよね。お客さまがスタッフに「今、声をかけていいかな? 忙しいかな?」と気を遣うような空気になっているのは、レストランとして成り立っていないと思うんです。シェフは丁寧に料理を作るということが主で、接客は多少のゆとりをもって構える。そういう中で、お客さまに優雅な時間を楽しんでいただきたいと思っています。

原村での生活とお店のこれから

Q. 移住することで確保したお子さんとの時間はいかがですか?

明子さん/このあたりは早い時間に夕食をとる方が多くて、20時頃にはお客さまみなさまがお帰りになっていることも多いんです。それに店と家が一緒になったこともあって、育児と両立しやすくなりました。


子どもとの時間でまず感じるのは、普段のお散歩の質がずいぶん変わったこと。クワガタだ、ヘビだ、見たこともない虫がいる!とか、葉っぱが黄色になったねとか。今日の八ヶ岳は、雲は、月は・・・というように、すごく身近に自然を感じます。あと、原村には畑がたくさんあるので、あれは蕎麦のお花だよとか、お米の収穫が終わったねとか、白いブロッコリーだ!といった会話を親子でしながら、いろいろ詳しくなりました。四季で違う風景を五感でかんじる日々。それだけでいい。なんて豊かなんだろうと思います。それに、ちょっとそこまできのこを採りに・・・なんてこともできます(笑)

写真提供:松本さん

Q. 新しいお店で、新しくやってみたいことはありますか?

明子さん/形にしたいのは、原村の地のものを使ったスープやパスタソース、ピクルスなどのテイクアウト。別荘で過ごした方が戻られるときに、お土産に買っていっていただくこともできるかなあと思っています。

あとは、レストランウェディングをやりたいです。ここで、すでに3組のお客さまがこのお店をプロポーズに使ってくださっているんですよ。私はサプライズを考えるのが好きだし、料理はもちろん、お花の提案とかもしたりして・・・。そう、こうやっていろいろ浮かぶアイディアを言うのは私、形にするのはシェフの役目かな(笑)

店内から見える木立をバックに。

ライター/中野明子 撮影/いわさきあや
(この記事は2021年10月時点の内容です)

編集後記

Ristorante DANLOのドアを開けたとき、思わず「うわあ!」と声が出ました。最初に目に飛び込んでくる風景がまずご馳走! そして互いの上質な仕事ぶりを信じ合い、自分たちが目指すレストランとは?と常に自答しているお二人の匠の技とプロ精神が、隅々まで行き渡っています。お店のファンであり友人でもある私は、原村移転の決意を聞いたとき、頑張れ!の前に、寂しいなあというのが正直なところでした。でも、彼らの新しい店と生活を目の当たりにしたとき、心から「大正解だったね!」と拍手喝采。「これが自分たちらしい生き方だ」としっくりくる場所をついに見つけたのだなと、胸にグッときました。第1章も大好きでしたが、より高みを目指すDANLOの第2章の幕開けにワクワクしています! 今回の記事では、あえて店内全体を見渡した写真は掲載しませんでした。扉を開けた向こうに一体どんな風景が広がっているのか・・・、一瞬にして非日常の空間にワープするような高揚する瞬間を、ぜひ、皆さまも体感してください。

店舗情報

Ristorante DANLO
住所:諏訪郡原村16267-1311
TEL:0266-63-1479
営業日:水~日曜日 Lunch 12:00~13:30 L.O.  Dinner 17:30~20:00L.O.
*店舗前に駐車場あり。
*ディナー予約、アレルギー対応、記念日等の相談は前日までにお電話にて。
*お子様メニューについては予約時に相談を。

    

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