2022.02.22

LSM対談企画
リビセン × すわしん
諏訪をもっとおもしろく!デザインとお金と街づくり【後編】

前編では、ReBuilding Center JAPAN(以下リビセン)の東野唯史さんと諏訪信用金庫の樋口廣一さんがタッグを組んで取り組んだお店作りのこと、諏訪でお店をもちたいと夢を描く人の思いを力強くあと押しするお話をしていただきました。
後編では、お二人がこれから進めようとしている計画や諏訪が秘めている可能性ついて、熱く語り合っていただきます。

これからの諏訪の街づくりに関わるプロジェクトとして、
やってみたいことはありますか?

樋口さん/実は今、リビセンさんと一緒に街づくりの会社を作ろうという話がまさに進んでいるところでして。

東野さん/そうなんですよね。樋口さんがきっかけを作ってくださって。

樋口さん/諏訪ではだいぶ人口が流出してしまって、街に元気がなくなってきているので、諏訪に移住して商売をやって盛り上げていきたいという方がいるのであればどんどん来てもらいたいという思いがあって・・・。そのために空き家を活用できないかなあといろいろ巡っていたんです。その中で「ここ、なんだか雰囲気がいいな」と感じる物件があったんですよ。そこを管理している不動産屋さんに聞いたら、解体して住宅地にするという話だったんですけど、いや、ここでなにかできるんじゃないか、東野さんだったら何かしてくれるんじゃないかと思って。東野さんに「ここどう?」って話をもって行ったら、東野さんもその物件が気になっていたと(笑)

東野さん/そこは四軒長屋で、僕が調べたときは1軒1軒が別の持ち主だったから「これは手強い! 絶対ムリ!」と思っていたんです。でも、樋口さんがこの話を振ってくれたときは不動産屋さんがその四軒をまとめて買った後で、それならやりやすいぞと。

樋口さん/それで不動産屋さんに「この空き家を活かす方向で考えませんか?」と相談して、今街づくりのことを考え始めていると話したら、「そういうことやってみたかった。一緒にやろう!」って言ってくれたんです。

東野さん/樋口さんに不動産屋さんを紹介してもらってみんなでしゃべっていたら、樋口さんが「みんなで会社作りませんか?」って言ってくれて、僕も不動産屋さんも「それ、めっちゃいいですね」って。「じゃあ作ろっか」っていう流れになったんですよね。信金さんのファンドと不動産屋さんとリビセンの3者で株式会社を1個作ってやろうよと。

それは街おこしの一つの拠点になりそうですね!
近い将来にできるんでしょうか?

東野さん/今年中にはやりたいと思っています。四軒長屋を細かく分ければ8物件入る。僕、本屋は絶対欲しいと勝手に思っていて、共有のトイレも作ったりしたら、あと6物件くらい入るかなと。

樋口さん/それだけのお店が1か所に集まるとなれば、外からも人を呼べますし、地元の人も「ちょっとおもしろそうだ」って興味をもってくれれば、またその周りにお店が増えていくんじゃないかと期待しています。もう楽しみでしかないですねえ。

東野さん/四軒長屋が空いているからと言って、カフェをやりたい人が1人現われたところでとても手が出ないんです。でも、それをみんなで分ければ一人一人の負担が減る。そうやって、残したい建物や街の風景を守っていけないかなって思いますね。

みんなで分け合って、ハッピーに生きる。リビセンさんも信金さんも大事にしているマインドが、そこに繋がっているのですね。

東野さん/この長屋のプロジェクトが実現すれば、リビセンは設計の仕事が取れる。信金さんはそこに入るテナントの融資枠を取れる。不動産屋さんは新会社から家賃収入を得られるというふうに、会社にかかわる者それぞれにメリットがあるんですよね。そういうプロジェクトを少しずつ増やしていきたいなあと思っているんです。

樋口さん/リビセンさんの経営の仕方と通ずるところがありますよね。

東野さん/そうですね。例えば僕らがレスキューに行くとき、レスキュー先の家主さんと、解体業者さん、そして僕たちみんなにとって不利益が出ないようにということを意識しています。家主さんからちゃんと僕らが買い取るとか、僕らがレスキューする量が増えれば解体業者さんにとっては処分率が減って粗利率が上がるはずとか、僕らが買い取った物を販売することでスタッフにごはんを食べさせられるとかね。そういう、みんなにとって幸せな仕組みみたいなものを作っていきたいなあと思うんですよね。さっき、信金さんのポリシーとして「最適な利益」を追求するという話がありましたけど、その最適な利益をみんなでうまく分け合えるようなね。

リビセンの古道具フロアで一番人気の食器
レスキューされた物にはすべて「レスキューナンバー」が振ってあり、どんな場所のどういう人からどのように引き取られた物なのかが記録されている

樋口さん/リビセンさんが手がけてこられた数々のお店でコミュニティーができていて、街歩きを楽しむ人が増えてきていますよね。そんな中で、それぞれのお店が支え合っている街づくりというのが僕はとても素敵だなあと感じているんです。例えば、太養パンさんで買ったパンをコーヒー屋のambird(アンバード)さんに持ち込んでもOKと聞いてびっくりして。そういうマインドが広がっているのって、いいですよね。

新しい風も昔からの良さも混ざり合って、諏訪に新たな文化が生まれつつある予感。
お話を聞いていて、これからの諏訪が楽しみになってきました。

東野さん/この間、うれしい話を聞いたんですよ。リビセンと太養パンさんの間に、創業90年くらいの甲子堂さんっていう和菓子屋さんがあるんですけど、そこのお客さんが最近増えたって。多分、太養パンやoldeのあるあたりとリビセンの間を歩きながら、「あ、美味しそうな和菓子がある」って買う人がいるんだなあって。最近、お花を持ってこのあたりを歩いている人が増えたのもうれしいですね。

樋口さん/本当にこのあたり、人が少しずつ増えてきましたよね。素敵な光景です。

イラストレーターの山本ひかるさんが描いた「リビセンご近所まっぷ」(テイクフリー)

東野さん/移住者である僕たちは基本よそ者で、諏訪にお邪魔してるっていうって言う意識はずっともっているんです。今までいた人たちを邪魔しないようにしようって思ってる。でもせっかく住んでいる街だから、自分たちが楽しく暮らせるようにアレンジしていくことはやっていきたいなあと。東京にいると当たり前のようにあるパズルのピースみたいなやつが、1個ずつでいいから集まれば、どれも大好きなお店になっていく。数こそ少なくても暮らしの質が高まっていきますよね。そんな街になっていったらうれしいなあって思っているんです。

樋口さん/ずっと前から愛されてきた地元のお店、これまでに諏訪にはなかったような新しいお店、いろいろがあってこそ、活気づいていきますよね。そうやってパズルのピースが埋まっていくと楽しいなあ。

東野さん/ほんと、地元の方がやってる素敵なお店で知らないところもきっとたくさんあると思います。この間、楽茶さんっていう喫茶店に初めて行ったんだけど、オーディオにこだわっていて、いい音楽が流れてて、とっても良かったなあ。

樋口さん/僕は青春時代にこのあたりをよくチャリンコで駆け抜けていたのがとってもいい思い出で。その頃はもっと人がいたんです。そういう活気をちょっとずつ取り戻していきたいです。

東野さん/今リビセンの諏訪での設計の仕事は年に1~2件という感じで、後は東京とか名古屋とか離れた土地で仕事をしているんです。今回こうして信金さんと一緒に街づくりに関わっていく会社を作る機会に恵まれたので、もっと、自分たちが使う力をちゃんと自分たちの足下に残る形にしていきたい。そんな風にうまく回り出すんじゃないかなと、これからを楽しみにしているんです。

課題として感じることは?

東野さん/店舗ばっかり増えていくとバランスが崩れていくから、住む場所、住む人を増やしていくことも考えていかなきゃならないですよね。移住者でもいいし、地元の人が諏訪市内に魅力を感じて引っ越してきてくれるのも最高なんだけど。

樋口さん/そうですね。先ほど言ったように、人を呼び込むために空き家をもっと活用したいんです。特に上諏訪駅周辺の空き家密度がとても高い。それらを使って店舗や人を増やしていきたいと思っているんですけど、それには行政とのかかわりが欠かせません。東野さんにも誘ってもらって市が主催する会議に参加したりしていますけど。これからですね。

東野さん/最近諏訪市で、ようやく市民参加型の街づくり会議っていうのが始まったんですよね。市役所の中でも係長クラスの人たちが集まって、何か月かに1回情報共有の場をもつようになったみたいです。そうやって、横の連携でそれぞれのメリットをもち寄ってやりとりしないと、本当の価値って見えてこないですからね。

さらに、お二人がこれからやりたいと思っていることがあれば教えてください。

樋口さん/今、私たち諏訪信用金庫は“地域のためになることであれば、何でもやる”という 姿勢で職員全員がお客様に向き合っておりまして、まだ研究段階ですが、ビジネスサポート部というセクションで新しい試みに挑戦しているんです。東野さんたち移住者の方々を含め、諏訪にはたくさん魅力的なお店があって、それぞれに個性がありますよね。その個性が生き生きと活気づいていくには、そのお店のファンの方々も生き生きと活気づいていくことも重要と考えています。「このお店が好き」「応援したい」という皆様の思いを表す、共感するきっかけとなるものは何か―。
諏訪信用金庫としては、“地域通貨”かなと。利用者様にもお店の方にもメリットがもたらされるような仕組みになるように、今、全国の取り組みを参考にしながら研究しているところです。

東野さん/僕は今、諏訪の温泉文化を守る仕組みを作れないかなあ、ということを考えていて・・・。この間SNSでこのことを発信したらすごく反応があったんです。

樋口さん/上諏訪には共同浴場が70か所くらいあるんですよね。

上諏訪の共同浴場マップを見ながら語り合う東野さんと樋口さん

東野さん/そうなんです。どれも古くから地区の人に愛されてきた風情のある温泉なんだけど、高齢化による利用者の減少や管理維持の難しさから閉めざるを得ないという温泉が出てきていて・・・。あと5年、10年もしたら、風呂桶を持って浴場を利用しに街を歩く人々の風景がなくなっていっちゃうじゃないかっていう気がしているんです。だから例えば、廃湯になりそうな浴場をいくつかゆるく管理して、地元の人も観光客も利用できる温泉にできないだろうかと考えていて・・・。

樋口さん/今は地区の人限定で、外の人は入れませんもんね。

東野さん/そうなんですよ。温泉マニアからしたら、上諏訪の共同浴場巡りなんて最高なんじゃないかと思いますよね。もちろん、経営がうまくいっているところや外の人を入れたくないというところに、無理矢理観光客を入れてくださいって言うつもりはまったくないんです。ただ、さっきも言ったように、つぶれてしまいそうなところや、管理が難しくなってきて悩んでいるところをどうにかできないかなって。で、何かしらのいい仕組みを編み出すことができたら、それが共同浴場の管理方法の新しい選択肢になるかもしれないし。

樋口さん/諏訪ならではの生活風景ですから、失われてしまうのは寂しいですよね。諏訪の魅力の1つとして地元の人だけでなく、外の人にも知って体験してもらえるのはいいと思うなあ。そういう取り組みをしている自治体もありますよね。

東野さん/渋温泉でやっていますね。専用の手ぬぐいを持って9か所の共同浴場を巡るっていう。

樋口さん/1か所入るごとに、御朱印みたいに手ぬぐいにスタンプを押していくんですよね。一種のアトラクションですね。

東野さん/諏訪は温泉の街。観光としてもそれをプロモーションするなら、ホテルの温泉だけじゃなくて、生活文化に触れられる温泉が諏訪の文化のあり方なんじゃないかと思うんです。しかも、共同浴場の数の多さは信州一だそうですよ。ぜったい今の時代に受けると思うんだけどなあ。誰か興味のある人いたら、一緒にやりましょう!

インタビュアー/澤井理恵 
ライター/中野明子 
撮影/清野良江 
取材場所/ReBuilding Center JAPAN(上諏訪)

(この記事は2022年1月21日取材時点の内容です)

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