2022.02.15

原村の別荘をエコハウスに。
人とのご縁でたどり着いた、自然とつながる平家暮らし。

標高およそ1,200m、原村の村営別荘地内にある平家建てのエコハウスにお住まいの粟野さんご一家をご紹介します。別荘として愛された建物をリノベーションし、ご夫婦と三姉妹の娘さん、5人で暮らしています。インタビューを通して、ご縁を大切にしている粟野さんならではの、人の繋がりに導かれたような家づくりや暮らしの在り方が見えてきました。

粟野龍亮さん・紘子さんご夫妻

原村での暮らしに至るまで

Q. お二人は移住されてきたと伺っています。どういった経緯でお越しになったのですか?

龍亮さん/僕たちは元々東京に住んでいて、アパレルブランドのアーバンリサーチが展開するセレクトショップ「かぐれ」で働いていました。かぐれは服だけでなくて作家さんがつくる食器や陶器などの作品を扱っているお店なんですが、地方の作家さんを訪ねることが多かったんです。プライベートでも作家さんの作品を見ることが好きだったので、「かぐれ」で買い付けや地方を見て回っていると、だんだんと仕事とプライベートとの境目がなくなってきたんです。地方との繋がりや訪問の機会も増えていって、じゃあ自分たちも移住しようという気持ちが自然と湧いてきました。

紘子さん/そこで、出産を機に一旦私の地元の三重県に引っ越して、2年半くらい暮らしてみました。地元は温暖な気候で年中野菜がとれて、人も陽気な感じなんです。暮らしには豊かさがありましたが、私たちは暮らしにもう少し静けさを求めているなあというように感じたんです。そこで、次の移住先として長野県が候補にあがりました。山登りが趣味なので八ヶ岳の風景は馴染みがあって、感覚的にいつか暮らせたら、と思っていた土地でした。

龍亮さん/知人の別荘があって、以前から遊びに来ていたこともあり土地勘もそれなりにあったのも大きかったですね。茅野市の地域おこし協力隊の求人を見つけて応募、ご縁があって採用もしていただけたので茅野市に移住したんです。協力隊としては、地元のものづくりや食にまつわる観光商品の開発などを2年間ほど担当しました。地域との繋がりもできてきた頃、ちょうど茅野市で事業が立ち上がるということで前職アーバンリサーチからお声をかけていただけました。いまはアーバンリサーチが運営するキャンプ場「TINY GARDEN 蓼科」の企画・地域コーディネーターをしています。

紘子さん/いま、私は育休中ですが、私も夫と同じ職場で働いています。移住して5年目、価値観の近い人との繋がりも築けてきて、心地良い暮らしができるようになってきたかな。土地に自分たちがフィットしてきた感じもします。長野は自然が豊かだからこそ環境が厳しく、作物も限られた時期や種類しかつくれなかったり、資源が少ないとも言われますよね。その「ない」からこそ何かが生まれてくる文化にも惹かれています。

Q. 暮らしのベースが固まってきた感じですね。そこから、住まいについて考えるようになっていったのでしょうか?

紘子さん/そうですね。移住してからはずっと賃貸の市営団地に住んでいたのですが、長女が小学校に上がる前に落ち着く場所を決めようと、土地や中古物件を探し始めました。最初は縁があったら見つかるだろうという安易な感じでしたね(笑)。古民家を借りるという話や、新築を建てようか、という話も夫婦の中でありましたが、現実的に進めていく中で中古住宅が買うのが良いねとなりました。

龍亮さん/暮らしのベースを考えたとき、一番は、自分たちの身近な人と家づくりをしたいという思いがあったんです。この物件も、知り合いの不動産屋さんに物件を紹介してもらったし、実際建てていく工程でも、知人の大工さんや友人たちとつくりあげました。

紘子さん/最初にこの建物を見たとき、平家っていうのも魅力的だったし、何より大切に使われているのも伝わってきました。検討を進めていく中で、実は知り合いの息子さんが売主さんだということも分かったんです。ご縁を感じて、これは良い方向にいくんじゃないか?ということで、購入を決めました。

リノベーション前の建物外観/写真提供:粟野さん

私は森の中で暮らしたいという憧れもあって、自然との距離感は大切にしたいという気持ちも大きくて。一方で、子供の送迎のことも考える必要がある。願望と現実の折り合いの点で、原村の中でも比較的標高が低く暮らしやすい立地だったというのも決め手のひとつですね。低いと言っても1,200mの場所なんですけどね(笑)

「自分たちの家は、自分たちでつくるもの」

Q. いよいよ建物を購入したんですね!リビセンに依頼することは決めていたんですか?

龍亮さん/もともと自分たちの家づくりを始める前から、リビセンにはよく行ってたんです。リビセン周りの共通の知り合いや繋がりのある作家さんも多いんですよ。

紘子さん/リビセンが会いたい人に会うきっかけをくれるというか(笑)。だから、リビセンにお願いしたのも自然な流れでしたね。デザインというよりは、とにかく現実的に暖かくて快適な家づくりをお願いしました。前の家は冬の時期はとても寒かったので。加えて、心地良さという意味で、できるだけ自然材を使いたいという希望も伝えました。

龍亮さん/この建物はもともとの雰囲気が気に入っていたし、リビセンの東野さんにも「既存の状態が良いから、そのまま生かせるよ」というように言ってもらって。手を入れるのは最低限で済んだおかげでコストも抑えられました。建物の特徴として地面と床下までの高さがすごくあったので、通常の家だと床を解体して断熱材を入れなければいけないところを、解体せずに済んだりもしましたね。

リノベーション中の建物外観/写真提供:五味貴志さん

龍亮さん/間取りも基本的には変えていないんですが、部屋の仕切りをなるべくなくしたことで開放的になりました。生活や家事の動線としても便利だし、どこにいても暖かいんです。これもエコハウスだからこそですね。

紘子さん/仕切りがなくて広々しているから、子供たちは駆け回ったり縄跳びしたりしています(笑)。家の端から端までをダッシュしたり、子どもたちにとってもいい間取りになっているかな。

Q. リノベーションをしていく上で、大変なことはありましたか?

紘子さん/リノベーションとなると、予定と違うことが起きたりもします。例えば、リビングを広げて隣接する和室はもっと狭くするはずでした。でも構造上の問題で、既存の壁を壊せないことがわかったんです。こちらの願望を伝えつつ、現場を見ながら相談して判断しながら進めていくことも多かったです。

龍亮さん/僕たちは大工さんも知り合いの方に直に声をかけてお願いしたんですけど、通常はリビセンから慣れているところに施工業者に依頼しているそうなんです。エコハウスは作り方が特殊なので、大工さんに突然「エコハウスをつくってほしい」と言っても、経験がないから多分困っちゃうらしいです。だけど僕たちのつながりの中で家をつくりたいという気持ちを汲んでくれて、僕の知り合いの大工さんとリビセンのスタッフとで一緒に施工してくれたという経緯もありました。希望を聞いてくれてありがたかったですね。

紘子さん/あと大変だったのは、DIYのための時間を捻出することでした。

龍亮さん/そうだね、仕事との兼ね合いが難しかったです。ちょっと体験してみるとかのレベルではなく、家づくりなので、期限を決めてやらないと終わらないですからね。

Q. ご自身でのDIYもされたんですね?

龍亮さん/はい、大工さんが「家は一緒につくるもの」という信条をお持ちだったのもあり、現場にいることを歓迎してくれました。DIYの経験があった訳ではないのですが、職場のTINY GARDEN 蓼科もリノベーションした施設ということもあって、DIYに抵抗はなかったですね。普段からちょっとしたメンテナンスも自分たちでしているし。今回は自分たちの家だし、自分たちでつくっていこうという気持ちでしたね。

大工さんと共に作業/写真提供:粟野さん

紘子さん/床貼り、壁の漆喰塗り、薪ストーブの炉台のレンガ積み、台所のタイル貼りなどみんなでやりました。私は丁度家づくりが始まった位で妊娠が発覚して戦力外だったんですよ。だから、誰か来てくれないかな?と、職場のスタッフや友人に声をかけたら「行くよ~」「ちょっとやってみたい!」と興味を持ってくれる方も多かったんです。みんなが手伝ってくれて、気持ち良くDIYできました。

龍亮さん/そうだね、漆喰塗りはリビセンにもサポートしてもらって、大半を2日間で仕上げたりして頑張ったよね。大変さもあったけど、いま思うとやっぱり楽しかったです。

漆喰を塗るのにみんなで左官/写真提供:五味貴志さん
リビセンスタッフや粟野さんのご友人が集まり、2日間でほとんどの壁塗りが完成/写真提供:五味貴志さん

家も環境も自然な心地良さ

Q. エコハウスの良さはどのように感じていますか?

紘子さん/エコハウスは高断熱かつ高気密の家。家中どこでも暖かくて、特に足元が冷えないのが幸せです。特に実感するのは夕方から夜、冷え込んでくる時間帯ですね。前の家では、子供たちと一緒にお風呂に入って、出た後は早くしないと湯冷めしちゃう!とバタバタしていたのですが、引っ越してきてからはお風呂上がりものんびりできますね。

サーモグラフィカメラで熱を可視化。温度差が少ないのが分かる

龍亮さん/窓もトリプルサッシになっています。建物とウッドデッキの接合しているところだけ床下に断熱材を入れられなかった事情があって、それで少し結露するんだけど、そんなには気になりません。

紘子さん/換気が大切というのも、学んだことのひとつです。例えばうちのレンジフードは、排気と同時に給気を行うことができる「同時給排気型」なんです。本来換気するには、排気量と同じだけ給気量が必要。だから換気だけしてしまって、室内の給気量が足りていないと、ちょっとした隙間から外気を取り込んでしまうそうです。それがいわゆる隙間風ですね。

同時給排気型レンジフード:排気と給気を同時に行う

龍亮さん/換気設備の点で言えば、エコハウスでは基本的に熱交換換気システムが採用されているそうです。室内で暖まった排気に残っている熱を、取り込まれた外気で吸収する仕組みです。熱交換効率は約90%と言われてて、常に給気は18℃くらいで部屋も暖かいまま。空気の入れ替えによる熱のロスを減らすことができるんです。

紘子さん/薪ストーブのところに付いているのは、差圧給気レジスターといいます。普通の時には閉まっているのですが、薪を燃やして空気が外に排気されて、室内が負圧になると給気してくれるんです。そこで入ってきた空気を、またすぐにストーブが吸ってくれます。

差圧給気レジスター:屋外に比べて室内の気圧が低い「負圧」の状態で自動的に給気

Q. エコハウスならではの様々な設備があるんですね!他にもご自宅でこだわった点はなんですか?

紘子さん/東野さんの提案で、壁のくぼみのスペースを使うニッチをたくさんつくりました。キッチンでは朝使うものを並べられて、思った以上の便利さがありますね。

龍亮さん/作家さんの作品や思い入れのあるものもたくさんあるから、ニッチに飾ってます。まだ生かしきれていない感じもするから、これからもっと面白く使っていきたいな。

インターホンやリモコン、スイッチなどもニッチに収めてすっきり

龍亮さん/あとはやっぱり憧れの薪ストーブですね。朝ストーブを焚くのも日課になっています。

紘子さん/山小屋みたいな雰囲気にしたくて、クラシカルなものを選びました。補助的にエアコンを使うこともありますが、基本的な暖房は薪ストーブです。やっぱり暖かいですよ!日中の外気温が氷点下じゃなかったら、日差し次第では冬でも暑くなって薪ストーブ消しちゃう日もあるくらいです。まだ初心者なので薪を調達するのは大変ですが、いまはリノベーションで出た廃材を薪ストーブに使ったりもしています。

薪ストーブの上部には、物干しにもなるバーを設置

Q. 住んでみて感じていることや、これから楽しみなことなどはありますか?

龍亮さん/わざわざ公園に遊びに行かなくても、庭が広いので十分外遊びができます。家の前が遊び場っていいですよね。この前、雪が積もった時は雪山をつくってそり遊びもできました。ここは別荘地ですが定住されている方もある程度いるんですが、ご近所の方が子供たちにって雪を運んできてくれたんですよ(笑)。

紘子さん/私は薪割りとか、暮らしのために作業するのが好きだということに気が付きました。他力でなく自力で、自然と繋がって暮らすのって気持ちいいなあと思っています。

龍亮さん/そうだよね、家づくりも自分たちで手を動かしたからこそ、知識とか技術とか吸収できたこともあると感じています。最初はリノベーションについても全然分かりませんでしたが、今回DIYをしてやり方の基本が身に付いたかな。これから外壁を自分たちで塗装していきたいですね。まだ子供たちも小さいので、成長に合わせて家をアップデートしていくのも楽しみです。

【編集後記】

平家ならではの明るいご自宅で、同じく明るい笑顔で迎えてくださった粟野さんご一家。真冬の訪問でしたが、取材中の室内はぽかぽか。足元も暖かく、娘さんたちがのびのびと床で遊んでいた姿も印象に残りました。

エコハウスの機能性に加え、しつらえにあたたかみや手触り感があり、居心地が良い空間でした。作家さんとの繋がりやアパレル業界で磨かれたお二人の感性が、家中に散りばめられていて惚れ惚れ…。

またそれでいて「自分たちで外壁塗装をしたい」というたくましい発言も。正に粟野さんたちが暮らしの作り手であるということが伝わってくる取材になりました。

ライター/綿引遥可 撮影/古厩志帆
(この記事は2022年1月取材時の内容です)

【取材協力】

場所:長野県諏訪郡原村 粟野邸 
竣工:2021年 
デザイン:ReBuilding Center JAPAN 東野唯史 
施工:合同会社ヤツガタケシゴトニン   

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