2020.12.16

大正時代の古民家をリノベしたゲストハウス 「Fumoku」の日常

茅野駅から徒歩6分。2019年9月、大正時代に建てられた古民家を改装したゲストハウスFumoku(フモク)がオープンしました。駅前のメインストリートから脇道を入るとひっそり佇む古民家。おしゃれなのれんをくぐると昭和の風情漂う客室、バーカウンター、大広間に縁側… 。ついつい長居したくなるような心地よい空間が広がります。

『いつもの時間をより良い時間に』をコンセプトにした空間をつくりあげているのは、吉川泰介さんと遠藤 海さんの同級生コンビ。“自分たちが面白いこと”を日々追求しながら、ゲストハウスを切り盛りするLocal Small Shopの運営秘話を伺ってきました。

聞きなれないのですが、ゲストハウス名の「Fumoku」って?

吉川さん Fumokuは造語です。「盲亀の浮木」(モウキノフボク)という、ことわざからとったんですが、一言で言うと「滅多にない」という意味。お経に出てくる言葉なんです。ストーリーもあって、百年に一度だけ水面に浮かび上がる目の見えないカメが大海に漂う浮木(フボク)の穴に入ろうとするけど入ることができないという寓話(ぐうわ)のひとつです。そのまま“フボク”を使用すると、“腐木”だったり、いろいろな言葉が思い浮かんでしまう可能性があるので、濁点だけをとって「Fumoku(ふもく)」にしました。「滅多にない」という意味も気に入ったし、聴き馴染みの無い音や言葉だけど、なんとなく覚えやすい名前だと思って。このロゴも寓話にでてくる亀、亀甲をイメージして作りました。

そもそもお二人の関係は?

吉川さん 僕らは中学の同級生なんです。当時はすごく仲が良かったわけではないんですが、友達の結婚式で再会してから一緒にビジネスを始めることにしたんです。久しぶりに再会した時は、地元でこんな面白いやついたっけ?といった印象でした。

遠藤さん 僕は自分で建築業を経営していたんですが、もっと面白いことがしたかったんです。そんな時に吉川と再会して、なにか面白いことができそうかな、と思いました。

Fumokuを運営する(左)遠藤 海(えんどう かい)さん(右)吉川泰介(よしかわ たいすけ)さん

Fumokuを始めたきっかけは?

吉川さん 再会してから1年後くらいかな。2018年の5月にふたりで最初のイベントを企画したんです。僕らの地元である富士見町の山の中でのアウトドアイベントです。

でもそれが色々な理由でできなくなってしまって… 。Fumokuを開いたのは、イベントができなくなった1年後の2019年。とにかく何かしたい、っていう気持ちが二人とも大きかったので、当時から考えていた宿泊場所を作るために動こうと思ったんです。ここらへんって気軽に泊まれる場所がまだまだ少ないじゃないですか。県内外の人たちや登山にくる人をがもっと気軽に泊まれる宿をやりたいなって思っていました。

遠藤さん とにかくやりたいことをするために拠点となる場所がほしかったんです。そのためには固定の収入がないと自分たちのやりたいこともできない。いきなりゲストハウスを運営するとは思ってなくて、予想していたより事業を進めるペースは早いな、と思ってましたが、ここ(現Fumoku)を借りて改装作業にとりかかってました。

建築業が専門なのでリフォーム担当、吉川はデザイン系に強いのでWebサイトやロゴ全般を担当してます。

リノベーションした洋室。料金詳細はコチラ2階のベッドの部屋
取材当時は紅葉真っ盛り。テラスに出て四季折々の景色を愛でるのもおススメ
実はここは映画「さよならまでの30分」の映画で使われたお部屋だとか。ファンの方もたびたび訪れる知る人ぞ知る一部屋です

Fumokuオープンまでの道のりは?

遠藤さん 仕事柄いろいろな物件を見て回っていました。この古民家はずっと前からなにかやりたいなって思っていた場所だったんです。融資などの手続きを終えたのが2019年の7月なんですが、そのとき、まだ映画のロケ中で改装ができなかったんです。改装できるようになったのが8月くらいだったかな。自分たちで手を入れて9月1日にオープンしました。約1ヶ月半でリフォームやら細かい準備やらしていたのでもうバタバタでしたよ。まさに弾丸オープン。

吉川さん オープン前後は激務でしたよ。布団がないのに予約があったりして慌てたこともありましたね。宿泊客を見送ったらすぐにランチの準備。ランチ営業が終わって片付けていると15時とか16時。すぐバーの準備をして、宿泊予約が入っている時は、翌朝6時前には起きて準備してましたから。二人だけですべてよく切り盛りしてたなと思います。激務だったけど、ただただ楽しかったです。

客層は?

吉川さん 最初は7割方は外国のお客様でした。オーストラリア、ニュージーランド、アジア圏も多かったかな。古民家が好きな方も多かったです。お互い英語できないんですが、外国のお客様がいると、不思議なことにすぐにコミュニティが生まれるんです。バーにいると、地元の方や初めてのお客さんたちと外国からのお客さん方で勝手に盛り上がってます。お酒が入っていることもありますけどワイワイガヤガヤ、楽しそうな光景が広がってました。

遠藤さん 当時の常連さんたちも外国の方達や地元の方達のとふれあいをすごく楽しんでくれていました。地元の方達は、外からみた茅野のことを知りたいって思う方が多いのかな。なんで、茅野に来たんだ?って真剣に質問したりしてましたよ。国籍や性別関係なく集える場所自体がなかったということもありますけど、ここでは本当いい空間が生まれてたと思います。

常時50種類ほどあるバーカウンター。こちらは遠藤さん作

「さぁこれからだ!」という時にコロナ禍。影響は?

遠藤さん オープン当初は、ありがたいことに売り上げは伸びてました。宿泊客、忘年会、バー、いろいろな方に利用してもらいました。さぁいよいよだ!ってときにこのコロナです。やっぱりいろいろが計算外でしたよね。春が来るのが楽しみで仕方なかったんですが、迷うことなく、fumokuはcloseにしました。関東圏のお客様が多かったので仮にオープンしていたとしても、ここをベースにしてもらっていたお客様にとっては良い思い出や時間にはならない状況でしたし、地元の方にも良い印象ではないはずです。お互い幸せじゃないなら意味がないですから。オープン当初から苦しい思いをしているのでコロナでも心身ともに落ち込むってのはなかったかな。なるようにしかならないですしね。

いまは4部屋あるうち3部屋だけ稼働させています。だんだんお客様は戻ってきていただいてますが、まだまだオープン当時までに回復しているわけではないです。

ランチ時に利用できるお部屋。ほどよい陽の光が気持ち良い一室
定食ランチ(1300円/税込・1ドリンク込み)
学生時代に有名飲食店でバイトをしていたという吉川さんが腕を振るうランチ。 このクオリティのカキフライが食べられる場所、そう多くはありません。食べなきゃ損!

二人で立ち上げたfumoku。
運営していくうえで大切にしていることは?

吉川さん いまアルバイトの子と料理専門の方に来てもらっているんですが、スタッフには、それぞれの働き方も決めて欲しいって思っていて、お金を自分たちで稼ぐことを考えてもらっています。僕自身、サラリーマンだった当時、稼ぐってどういうこと?ってことを考えてました。この製品は単価いくらでつくって、いくら利益がでてるんだろうって。お金の流れを知ることってすごく働く上で重要だと思うんです。アルバイトとして人から言われた仕事をするより、自分でやりたいこと考えて稼ぐ方が学びが多いはずですから。それに、いま個々人の能力がすごく高いと思うんです。自分でお金を稼げるならどんどん活動していったらいい。その場所やきっかけとしてFumokuをつかってもらえばすごく嬉しいです。

遠藤さん 自分でお金を生みだすことって社会人になってからは誰も教えてくれないんです。いまうちでアルバイトとして働いてくれている学生さんは、自分でお菓子を作って値段つけて、販売して、利益を出してくれています。それでお客様の満足度を高めてくれたら僕だって大満足です!僕はけっこう根性論で社会人生活を突き進んできたんですが、やっぱり働く意義を感じながら毎日過ごしたいし、みんながそうであって欲しいなって思います。

これからの夢と今後のFumokuについて

吉川さん 一年やってみて思うのは、ゲストハウスとしての機能が主ですが、Fumokuにいるといろいろな悩み、やりたいこと、困った方の声を聞くようになったんです。朝食をつくって誰かに提供したい人、壁に絵を書きたい人とか。そんなこともあり、せっかくFumokuを営業しているので、茅野市でビジネスを始めたい、ビジネスを始めやすい空間づくりのお手伝いがしたいなと思っています。空き家を改装して、店舗貸しできる場所にしたり、副業しやすい住空間を作ったり。

平日勤務の会社員、主婦、副業したいのに一歩が踏み出せない人たち向けにどんどん場所を提供していけたらと思っています。そして、もっとFumokuを体験の場所として活用して欲しいと思っています。基本的に僕らは面白いことに挑戦していきたいので、Fumokuは宿泊場所ということにこだわらず、進化していきたいと思っています。

遠藤さん ここFumokuには自然に面白い人が集まってきてくれるんです。Fumokuでできることは限られるのでいろいろな使い方を提案したいし、お客様からも提案してもらいたいと思っています。そして、商売って楽しいよ、稼ぐって楽しいよってことを身をもって体験してもらえる場所にしたいですね。人生楽しまないと!笑 あ、あと夢は廃校になった母校・富士見南中が欲しい。いつかシェスペースとか貸店舗にしていけたらいいなぁ。

(内容は2020年12月取材時の情報です)

編集後記

お二人と話しているとFumokuでなら私にもなにかできるんじゃないか、違う自分に気付けるのではないか、そんな根拠のないワクワク感が湧いてきます。話しやすい雰囲気を自然と出してくれる名コンビ。ゲストハウスFumokuとしての利用はもちろん、他愛もない話をしにお二人に会いにいきたくなる場所、空間でした。ランチのクオリティの高さは前述の通り。定食ランチ「生姜焼き」も格別で厚めに切られた豚肉は甘めの味付け。それに味噌汁じゃない味噌汁(とにかくおいしい)はやさしい出汁の旨味が染みる。大食漢な筆者、食べ応え十分、お腹も心も満たされる時間となりました。

店舗詳細

Fumoku
住所:長野県茅野市ちの3038-1(JR茅野駅から徒歩6分)
TEL:070-1490-7716
<ゲストハウス>
・部屋貸しにて、ご提供中。
<ランチ/カフェ>
・予約優先/月心さんの駐車場利用可能
・ランチ定休日は火曜日、臨時休業あり
※ご予約、お問い合わせはこちらからご確認ください

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