2022.04.10

年齢や障がいのあるなしを超えてごちゃ混ぜに!
自由な表現活動の場所「アトリエももも」【後編】

前編では、子どもも大人も自由に表現活動ができる工房「アトリエももも」ができるまでを追ってきました。後編では、実際のアトリエの様子や、主宰者の鈴木さんと西川さんが参加者の表現から受け取ったこと、これからつくっていきたい風景について伺いました。

■アトリエの時間

Q. アトリエではどんな時間が流れていますか?

鈴木さん/子どもの創作に刺激されて大人の手が動いたり、大人のやり方をまねして子どもがまた新しいことをやってみたり。アトリエにいる人同士が影響し合って新しい表現が生まれていく場面がいっぱいあります。

同じ場でそれぞれに創作に没頭する親子。
友達同士で影響し合う。
お庭での水あそびに夢中になる子も。
使った道具の後片付けも自分たちで。使った絵の具を洗い流すときの色の混ざりもまた楽しい。

西川さん/あと、最初は何をしたらいいのか分からなかった子が、徐々に表現を広げていく姿にもよく出会いますね。最初、ずっと鉛筆で女の子の絵を描いていた子がいたんです。自信がないのか、描いては消したり途中でやめちゃったりしてて。でも、毎月来てくれているうちに、だんだん粘土や絵の具でいろんなものを作るようになったんです。

鈴木さん/彼女は表現の幅が広くなったよね。もももではDIYのワークショップもやっているんだけど、その子、お父さんとDIYで椅子を作ってからすごく変わった気がする。

西川さん/確かに! 普段、すごく物静かなお父さんが、椅子の枠を超えたようなすごい作品を作ったんですよ。それを見てその子が「パパすごい!」ってすごく感動して、パパもそれを聞いてニコニコで。そこからかもしれないね。

DIYワークショップでお父さんが作った椅子。

鈴木さん/かっこいいパパを見てから、作品のイメージが大きくなったよね。最初は小さいところから細かく細かくって感じだったし、いきなり粘土こね始めるような姿ってあんまりなかったんだけど。「こういうのも、ものづくりなんだ」ってことが分かったのかもしれないね。絵を描かなきゃって思っていた枠が外れたのかもしれない。

お父さんと椅子作りを経験した娘さんが、その後作ったアトリエもももの看板。立体感のある作品。

Q. DIYと言えば、アトリエ空間もワークショップで人を募って手作りしたんですよね?

鈴木さん/最初は古民家の母屋を貸していただいていたんですが、畳や障子を汚してしまわないだろうかと常に心配がありました。あと、道具の出し入れも大変だったので、常設のアトリエがあるといいねと話していて…。

西川さん/すると大家さんのご厚意で、ここの蚕室を常設アトリエとして貸していただけることになったんです。当時は倉庫だったんですが、入った瞬間、私は「ここは絶対いい空間になる!」と思いました。茅野市の「みんなのまちづくり支援事業」という補助金をいただけることになり、有志でDIYしてアトリエ作りに挑戦したんです。

西川さん/アトリエ活動のほうは子どもと女性が多かったんだけど、DIYは男性が多く参加してくれました。車いすの人や知的障がいのある人も参加してくれて、かかわる人がぐんと幅広くなりましたね。

Q. アトリエでスタッフが大切にしていることは?

子どもの創作を見守るスタッフ。

鈴木さん/今、スタッフは私たちのほかにあと4人。私か西川さんどちらかとあともう1人、合計2名のスタッフが現場にいるようにシフトを組んでいて、現場での私たちのあり方については共通認識をもっています。まず、私たちは教える立場じゃないということ。手を出しすぎないこと。アトリエを利用している人が自由に思うまま表現できることをサポートするということを大事にしています。もちろん、道具の使い方など質問を受けたときには説明しますし、使ったことのなさそうな画材でこんなこともできるよ、こんな表現の広げ方もあるよといったヒントを適宜伝えたりはしています。

この日、初めてカッターを使う子をサポートする西川さん。

西川さん/そうですね。大切なのは「待つ」こと。本人が自分で色や物を選ぶっていうことを主体性をもってやれるような場をつくるのが私たちの役割。そうして本人が「ゼロから生み出す」ということを大事にしています。今、そういう体験が少なくなってきているので、「何をしたらいいか分かりません」と言われることもあるけれど、「ちょっといろいろ見てみて」と声をかけると、あるときからちょっと何かを始めていたりして。もちろんすごく悩んでいたり、自分で生み出すことを苦しく感じている場合には、「じゃあ、これ一緒にやってみよっか」と声をかけたりもしますが、基本的には見守ります。

自分で色を選ぶ。
好きなキャラクターをどう具現化するかを考え、いろんな材料を用いて創意工夫する。

■アトリエもももの役割

Q. ここまで取り組んできて、アトリエもももの存在意義をどう感じていますか?

鈴木さん/もももでは、“親御さんの付き添い”っていう概念がなくて、一緒に来る保護者の方からも参加費をいただいて、親御さんもお子さんもそれぞれ表現を楽しんでくださいっていうふうにしているんです。すると、子どもはお父さんやお母さんの新たな一面を見れる。離れることで、親も子どもの新しい面に気がつくことがあるんですよね。

お母さんも一人の表現者としてここに。

西川さん/自分のお父さんやお母さんが表現する場ってなかなか見ないですよね。でもそれをお子さんが見て、「お母さんってこうなんだ」というふうに人として出会う。それって貴重なんじゃないかなって。逆に親御さんがお子さんの表現を見て、「こんな表現すると思わなかった」「こういうことをすると生き生きするのね」ってつぶやいているのもよく聞きますしね。

西川さん/ケアする人(=親)のケアって大事。自分をケアしないでお子さんのことに一生懸命な親御さんが多いから、ここで自分を表現して、リフレッシュして帰ってほしいなと思います。すると、いい親子関係がつくれるかもしれないですよね。施設とか病院で引っかかっていたのは、ケアする人とされる人って上下関係ができてしまうこと。そうじゃなくて、対等な関係ってアートだからこそできると思うんです。親でもないし子どもでもないし、人と人ってなる。私はこういう立場とか、これができる・できないとか、日々みんな無意識にガチガチになっているから、そこを壊すのがもももの役割かなっていう気がしています。

没頭するお父さん。

■より気軽に、自由に表現の花を咲かせて

Q:今後の課題や、これから目指したいアトリエのイメージを教えてください。

お庭の魅力的なものを拾い集めて。

鈴木さん/障がいのある方や社会で働けない方など、社会の周縁にいる人にこそ届けたいと思って始めたアトリエだけど、運営するためにお金をいただかなきゃならない。その会費の壁ってあると思うんですよね。「そのために来られない人がきっといる」って思っているんですが、私たちの力ではそれが精一杯で・・・。

西川さん/そのジレンマが、今直面している課題ですね。多くの方に画材などを寄付していただいて支えられている部分もありつつ、自分たちで自腹を切ってやっていくのでは、続けていくのが厳しくなると思うので、どう事業化するかを考えていかなきゃならないですね。

鈴木さん/そんないろんな思いが、昨年度(2021年度)行った「子どもアトリエももも」という新たな活動に繋がりました。茅野市から委託を受けた事業で、創作活動や、学習や食事の支援・日用品の提供などの支援や、子育ての悩みなどの相談・アートセラピーを無料で行う活動を1年間行いました。やってみて、利用者の幅が広がったと感じています。

西川さん/そうだね。あと、創作する中で話してみたら実は悩みがあって・・・ということがあったり、来てみたら相談できて気持ちが開いていったり。アートセラピーに興味をもってくれた方も結構いました。「相談」に行くとなると覚悟がいるけれど、アートということなら「ちょっと行ってみようか」となるみたいで。そういう人たちを見ていて、ここを「施設」にせず、自由な創作アトリエという形でやってよかったと改めて思いました。1年間の活動でしたが、今後のアトリエももものありようを考えるいいきっかけになりましたね。

鈴木さん/最初に「障がいのあるなし関係なく・・・」というコンセプトを挙げたとき、私がもっていたイメージって、うちの子のように身体や知的に障がいのある人、福祉施設を利用している人というイメージがあったんだけど、実際にやってみると、普通に生活している中ですごく生きづらさを感じている人や、学校に行かないという選択をしている子やそのお母さんなど、見えない生きにくさをもってる人にたくさん出会いました。地域社会の中にある格差やどこにもつながれなくて苦しんでいる人がいるというのが見えたんです。だから、そういう人たちの居場所にもなるような、いつでも開いていて誰でも気軽に入れる場所を目指したい! お茶を飲みに行くような感覚で立ち寄れるアトリエにしていきたいなあ。

西川さん/そして、ここで歌ったり、踊ったり、なんでも表現していいんだよというのが伝わって、ここでありのままの表現の花がたくさん咲いたらいいな。歌ってもいいし、おしゃべりするだけでもいいしっていう自由さが、もももの良いところ。そこにどう付加価値を感じて来ていただくかというのも私たちのテーマですね。

(この記事は2022年4月時点の内容です)
ライター・撮影/中野明子 

■編集後記

「決められたものをその通りに作るのではなくて、子どもたちの心も頭も柔らかいうちに自由に創作できる場所を」そんな思いで約2年前にたどり着いたのが、アトリエもももでした。今思えば、なかなか保育園になじめずに毎日号泣していた息子や、学校に行くことを苦しく感じていた娘と一緒に、心穏やかに過ごせる時間や居場所を求める気持ちもあったかもしれません。ただボーッと子どもたちの創作する姿を眺めたい私、ゆっくりペースで友達に刺激を受けながら表していく娘、そのときビビッときた素材をふんだんに使って大胆にアートする息子、お庭を探険したい気持ち、大好きなココアをゆっくり飲みたい気分・・・。もももで、そんな素の気持ちのままにそれぞれ過ごすうちに心がまあるくなり、たくましくずんずんと表現していく子どもたちへのリスペクトの気持ちが沸いてきます。一人一人をありのままに受け止めて、驚きや喜びを分かち合ってくれる鈴木さんと西川さん、スタッフのみなさんの存在もなんとも温かい! いろんな枠を取っ払って、一人で、誰かと、あなたも、もももでしか味わえないかけがえのない時間を過ごしてみませんか?

アトリエ情報

アトリエももも
活動場所:荒神の古民家の蚕室アトリエ(住所:茅野市玉川神之原4233)
開催日:毎月 第2日曜日・第4土曜日
時間:午前の部/10:00-12:00 午後の部/13:30-15:30 (予約制)
TEL:090-2473-2703(鈴木) 080-6783-3529(西川)
MAIL : ateliermomomo@gmail.com
ホームページ:https://ateliermomomo.com/
参加費:参加費:大人1,000円 子ども(18歳以下)500円 
*アトリエ開催日はホームページでご確認ください。 
*各時間枠定員6名の予約制です。 
*小学生未満のお子さんには保護者の付き添いをお願いしています。
*2022年度は独立行政法人福祉医療機構(WAM)の助成を受け、このほかに「こどもアトリエ」「こももアート食堂」「アートセラピーによる相談支援」も行います。詳細はホームページをご覧ください。

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