2022.02.20

やさしい気持ちになれる花屋「olde」。
素敵なお花を、自分に、そして大切なあの人に。

2021年12月、上諏訪駅のほど近く、古くから人が行き交う諏訪市末広に、ふわっと明るい光を放つお花屋さん「olde」ができました。誰もが馴染みのあるチューリップから気品漂う蘭まで、毎週50種程度のお花を仕入れており、大人が持ってもサマになるシックなアレンジが人気です。店主の森岡みさとさんに「olde」開店までの道のりをうかがいました。

■仕事がきっかけで見知らぬ諏訪へ

Q. 諏訪に住むまでの経緯を教えてください。

生まれは高知県です。ブライダルの専門学校に進学するため上京し、卒業後は東京都港区に本社があるブライダルフラワーの会社に就職しました。結婚式場やホテルと提携し、ご新郎ご新婦さまと打ち合わせをして披露宴会場の装花、ブーケの制作などをする会社です。会社の拠点はいろんな街にあったので、浜松、名古屋、大阪…と数年ごとに転勤しました。

 大阪で働いていた頃、長野に来るきかっけになった出会いがありました。多肉植物を生産する会社の社長が、長野県富士見町に新たな店舗を立ち上げるという話を聞き、とても興味を持ったんです。ブライダルの仕事は楽しくて好きでしたが、お客様の一生に残る場面を演出する重責が続くことや、結婚式当日だけに向けて花を準備することに心身ともに疲れていた頃で、いいきかっけだから自分も行ってみようと転職を決めました。

 長野県のことはよく知らなかったので、不動産屋さんに「犬と暮らせる庭付きの物件」というリクエストを出して日帰りで長野へ。まとめて物件を見て回り、その日のうちに住むところを決めました。多肉植物の店舗は富士見町ですが、住居は諏訪市になりました。距離感が全くわからなかったんですが「クルマで30〜40分で通勤できますよ」と言われて「そんな感じなのかあ」と思って(笑)。クルマ通勤そのものも初めてのことでしたし。だから諏訪市に住みたかったというより、職場の通勤圏で犬と一緒に暮らせる物件を探したらたまたまそうなったんです。

Q. 富士見町でのお仕事、諏訪での生活はどんなものでしたか?

 ブライダルフラワーも多肉植物も同じ植物ですが、お客様が必要とするシーンも、手入れ方法も全く異なります。ブライダルフラワーは仕入れてから結婚式当日にピークを迎えるように咲き加減をコントロールしていきます。式で飾られたお花はゲストの方にお持ち帰りいただき、枯れるまでの少しの時間をおうちで楽しんでいただきます。ただ、普通のお花に比べ多くのストレスを受けているので、結婚式当日の大役を果たした後の命は短いんです。

一方で多肉植物は土に植えられていて成長や増殖を楽しむもの。当初は「もう枯れているなー」と自己判断で捨ててしまい、「根っこが生きていれば回復可能だよ」と教えてもらったこともありました(笑)。生花とはちがう、長期的な手厚いお世話に衝撃を受けました。それほど多肉植物のことは全く知らなかったのですが、周辺地域の生産者や海外研修などによりたくさんのことを学んでいきました。

富士見にきて数ヶ月は社長と二人でしたが、その後地元で採用した生産経験者も加わり、植物の世話をする不安は無くなりました。ですので、私は主に企画デザイン、小売とネット販売の立ち上げに専念することになりました。

Kisuke
愛犬「喜助」はお客さまの人気者でもある。

 一度ブライダルフラワーから離れて多肉植物の会社で働いたことで、自分がどれだけ花に関わる仕事が好きかということに気づきました。いつか花屋さんになりたい。でも東京のような大都市では犬と一緒の生活は難しい。そして、ここに暮らして、人も、食べ物も、環境も全部が好きになったから、独立するなら諏訪で、と思い始めていました。

     プライベートでは、ずっと飼いたかった犬も、引っ越して3ヶ月後に飼い始めました。柴犬の喜助(きすけ)です。今もoldeに喜助を連れて通勤していますが、富士見の会社にも連れていっていました。私はスポーツとか特別な趣味はないけれど、少しずつ知り合いや友人ができて諏訪での生活にも慣れてきました。

■店舗との出会いとリノベーション

Q. 現在の店舗やリビセンとの出会いはどのようなものでしたか?

4年ほど勤務した多肉植物のお店は常連のお客様も多く、いろいろお話するようになっていました。そんな世間話の中で、私がもともとブライダルフラワーの仕事をしていたことを知ったお客様から、ブーケなどを依頼されるようになりました。作ったものをインスタに載せると、それを見た方からオーダーがあって…という感じで、ブーケをささやかに作り続けていました。

ある時、常連のお客様に「私、花屋になりたいなー」とポロリと話したことがありました。独り言のような言葉でした。でもそれを聞いたお客様は「みさとちゃんならできるよ!お店を持つならどの場所がいいかな?上諏訪周辺だったらリビセンが力になってくれるよ!」とリビセンを紹介してくれたんです。2021年の4月の出来事でした。早速、リビセンを訪ねたんですが、その日のうちに、物件を2、3軒回って見せてくれました(笑)。それをスタートに6〜7月ごろは物件を本当にたくさん見て、夏前にこの物件に決めました。リビセンの東野さん、パートナーの華南子さん、スタッフの皆さんにはそれから本当にお世話になりました。

森岡さんのアレンジで花々が新しい表情を見せ始める。

Q. 物件を決めてから半年後にはオープンされたんですね。物件選びのポイントや、イメージしていたお店について教えてください。

最初は、今のような小売メインの花屋さんではなく、ブライダルフラワーや空間装飾など、求められる場所に作品を提供する業態をイメージしていました。必要なのは作業に専念できるアトリエで、小売は作品を作るお花をお裾分けするぐらいの感じでいい。ですから、利便性や人通りなどの、一般的にお店に必要な条件の優先順位は低かったんです。

 ところが、華南子さんから「いろんな人に、“花屋さんができたんだ”ってわかってもらえる場所の方がいいよ。知名度が低いまま注文販売メインのお店をするより、通りすがりで入ってもらったり、“あそこの花屋に聞いてみよう”って必要な時に思い出してもらえたりするほうがいい」とアドバイスをもらったんです。

 それで決めたのが今の店舗です。大きな窓があって、通りすがりの人に「花屋さんだ」とわかってもらえます。駅が近く人通りもあり、近所の方にもきていただけるようになりました。大きな窓から入る日光って実は生花には良くないんです(笑)。お花を良い状態で保つためには直射日光を避けた方がいいですし、夏は気温が上がるのでお花が傷みやすい。 夏までにカーテンをつけなくちゃと思っています。でも、この窓の丸いカーブした角もすごくかわいいので、そのままにしてもらいました。とはいえ、気温コントロールは大切なので、リビセンが二重ガラスを元の窓を活かしたままつけてくれました。

Q. だんだんお店のイメージも変わっていったんですね。立ち上げや事業継続には、資金調達、収支の計画、諸々の手続きなどもあります。どのように準備しましたか?

華南子さんに2度目にお会いした時に、信金さんに連れて行ってもらいました。「ランチしながらお話しましょう」という約束でお会いした日だったので、突然のことに驚きましたが(笑)、信金さんにご挨拶できました。融資を受けるということは、個人には責任が重くて大きい話なのでかなり緊張しましたが、ずっと華南子さんが同席して世間話で場を明るく和ませてくれました。

 数字で営業計画を立てることは、前職でもやったことがあるので抵抗はなかったです。でも、開業ってどうするの?何から始めるの?というのは何もわからなかった。だから、東野さんご夫妻に手取り足取り教えていただいたり、いろんな場面で課題解決に協力してくださったりしたのは、本当にありがたかったです。いつも明るく支えてくださって、開業にあたり行き詰まりがちな場面でも、前向きにストレスなく進められました。とても感謝しています。

 信金さんにも物件を紹介してもらったり、資金面や事業計画でのアドバイスをもらったり親身になっていただきました。

Q. 店舗のかわいらしさも印象的です。仕事場としての使い勝手も含め、店舗作りについて教えてください。

     まず、店舗は生花のコーナーと、ドライフラワーのコーナーがあります。ビジュアル面は、Pinterestを使って好きな画像を少しずつ集めていき、「自分はこういう感じが好きなんだ」とわかってきたので、そのイメージをリビセンと共有しました。

 私は特にたくさんの鮮やかなお花を使うので、花色がより映えるライトなトーンの店内にしてもらいました。床はPタイルやクッションシートを剥がして、うすくベージュピンクを塗っています。壁は漆喰ですが、ちょうどいいベージュになるように調色してもらいました。想像もつかないような細かい単位で調合を変えた色を10パターンも作ってくださって、そのサンプルを壁に当てながら「これ?それともこれ?」と実物を見ながら選びました。

デザイン性と機能性を兼ね備えたハーフミラー電球がドライフラワーを鮮やかに照らす。

ドライフラワーと生花のコーナーは、照明もそれぞれ工夫してもらっています。天井から吊るしたドライフラワーは、下から見上げる格好になりますが、そのとき一緒に吊るされている照明が眩しくないようにハーフミラー電球が使われています。光源が直接目に入らず、ドライフラワーにもいい照明が当たります。

生花コーナーの天井には、太陽光に近い色の電球を使ったダウンライトがついていて、花の細部まできれいに見せてくれます。3500ケルビンの色味のライト…自分は知らなかったんですが、リビセンの東野さんが教えてくれました(笑)。

レジ回りもリクエストに応えていただいています。レジカウンターではなく、ちゃんとお花の作業ができるような作業台を作ってもらって、お客様のオーダーを受けるときの打ち合わせにも使っています。作業台についている金色の蛇口は飾りじゃなくて、ちゃんと使えますよ。店舗内でバケツにちょっと水が欲しい時、奥まで行かなくていいようにつけていただきました。

借りられたところが思ったより広かったから、お店の一角はレコード屋さんが入っています。音楽は好きだけど全然詳しくないし、レコード屋さんとお会いしたのは、オープン2週間前(笑)。もともと物件を借りた時に、広いから一角は花器をたくさん並べて見せようとか、作家さんのものを置こうかなとか、お花以外のことに使おうと思っていたんです。レコード屋さんが入ったのは、花とレコードをかけあわせるとおもしろいから、とリビセンの紹介でした。お花に興味がない方でも、レコードのついでに花も見てもらえるし、いいですよね。

■はじまりの今、そして未来のこと

Q. 今日は平日の午前中ですが、絶え間なくお客様がいらしてますね。どんなお客様がいらっしゃいますか?また、今後はどんなふうにお仕事を育てていきたいですか?

お客様は近所の方もいらっしゃれば、インスタなどSNSを見てきてくださる方もいて、年齢もいろいろです。リビセンの近くにあるので、ついでに立ち寄ってくださるお客様も多いですね。嬉しいなあと思うのは、パートナーにお花を贈られる男性が多いこと!誕生日だったり、何かの記念日だったり、ご出産だったり…、ちょっと疲れているみたいだから、という理由も。きっとそれぞれにストーリーがあって、素敵ですよね。

これからやっていきたいのは、お店の外での活動です。ブライダルは松本や軽井沢からお声がけいただくことがありますが、諏訪ではまだ無いんです。諏訪でもウエディング会場に限らず、レストランウェディングやアウトドアウエディングでも空間装飾やブーケの提供などやっていきたいです。お店や商業施設の定期的な生け込みも、お声がけいただければ伺いたいですね。

 枕花も、うちは普段白いお花はあまり置いていませんが、ご用意できます。近年は故人がお好きだったお花や、ご遺族の気持ちを反映したお花を飾ることも多くなったので、以前より彩りがあるものも受け入れられているように思います。

ニューボーンフォトも!カメラマンの手配まで合わせてご用意できます。

ライター/萩尾麗子  撮影/いわさきあや
(この記事は2022年2月時点の内容です)

編集後記

森岡さんのセンスが隅々までゆきわたる店内は、どこを切り取ってもフォトジェニック。大きな窓からたっぷりはいる日の光と、温かい色調のためか、ゆったりとやさしい空気が満ちています。途切れず訪れるお客さまたちも、お花だけではなく、「oldeにいること」そのものを楽しんでいる様子でした。

 コロナ禍の、暗い雲が垂れ込めたような日々に疲れた時、「olde」のかわいいドアを開け、森岡さんと愛犬「喜助」に会って、花を買って帰ったら、元気になれそうな気がします。

店舗情報

olde(オルデ)
住所:〒392-0025 長野県諏訪市末広4-14 
電話:090-6370-6060 
定休日: 第1水曜日、第3水曜日、毎週木曜日 
営業時間: 10:00-17:00 
Instagram: @olde.flower___
*ブーケ等の作品や営業に関する最新情報はInstagramにて。 
*駐車場は近隣に2台あり。
*併設するレコード店「ONE RECORD STORE」の営業日もoldeに準じます。

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