標高、約900m。八ヶ岳の眺望が美しく広がる場所に位置する高林邸。約80年前に建てられたという古民家をリノベーションしたご自宅は、古民家の古き良き外観を残しつつ、室内はスタイリッシュ、かつ快適空間が広がる一軒家に生まれ変わりました。いま注目を浴びるエコハウス設計、そしてReBuilding Center JAPAN 東野夫妻によるデザイン。Local Living Base(快適住空間)で暮らす高林ご一家に、リノベーション後のホンネ、そしてエコハウス設計の魅力を伺いました。
勇太さん/完成したのは去年の夏(2020年5月)。ひと冬しか越していないんですが、すでに快適に暮らせています。ここが標高900mっていうことを忘れるくらい、夏は涼しくて冬は暖かいです。
この古民家は築80年なんです。この地域では珍しくない養蚕業を営んでいたお家らしく、二階スペースは作業場があって広い空間が広がっていました。作業場だったスペースをうまくデザインしていただいて、この高い天井とロフトが実現しました。
愛佳さん/全て私の希望です。結婚してから4年。家族が増えたことで真剣に家のことを考え出した時、新築をたてよう、とは思えなくて。夫の実家がこの近くだったのでこの辺りに住めたらいいなぁとは思っていましたが、なかなかいい土地や中古物件には巡り会えず。しばらくして、あるサイトをみていたらこの古民家が売りに出ていたので「ここだ!」と思ってすぐに夫に相談しました。
この古民家の内覧時、築80年の家ですからそれなりには朽ちていたんです。でも、「見た瞬間、リノベしたら絶対に良い家になる!」と直感が働いたのを覚えています。
私は昔から古いものに魅力を感じてきました。理由は旅好き、ということが関係していると思います。旅好きが高じて、ドイツやシンガポール、京都にも住んでいたことがあるんですが、日本中、世界中を旅する中で、モノを大切にする心や壊れたものをすぐに捨てずに直して使う大切さを身を以て経験してきたんです。古いものを大切にする… 。そんな当たり前だけどなかなかできない考え方に心から共感できたんです。
この古民家を買った理由は、そんな古いものを大切にしたいという気持ちがあったからです。それに、ここから見える八ヶ岳の眺望が素晴らしかったことも大きな理由です。八ヶ岳が見える場所に住みたいと憧れていた時期もありましたし、旅から帰ってくる途中、八ヶ岳や諏訪湖の景色が見えると、「あぁ無事に帰ってこれたな〜」と心から安心できましたし、季節によって表情を変える八ヶ岳や諏訪湖の景色を見るとどこか嬉しい気持ちになれるんですよね。
リビセンにリノベのデザインを依頼したのは、リビセンのコンセプト、東野さんたちのものを大切にする考え方が好きだからです。それに、ちょうど東野さんたちがエコハウス設計を手がけている、という情報も知っていたので私が依頼しました。タイミングがよく、引き受けてもらえたので本当に良かったと思っています。
勇太さん/実は自分がエコハウスに住む、なんて思ってみなかったので知識ゼロからのスタートでした。いま快適なエコハウスに住めているのは、妻の熱烈オファーを快諾してくれた東野さんたちのおかげです。自分たちが住む家になるわけだし、任せっきりじゃ申し訳ないなとも思ったので東野さんから紹介してもらったこの本を熟読することからはじめました。ここから僕たちのエコハウスづくりが始まった気がします。
この本を読んでからわかったことですが、エコハウスの断熱にはランクがあって、この家は、G2クラス。ちなみに、断熱のレベルは、G1→G2→G3→パッシブハウスの順になります。東野さんから言わせると「日本の一般住宅レベルではやりすぎ」というレベルらしいです(笑)。例えるならこの家はまるで魔法瓶。納得の暖かさですし、涼しさです。真冬の寒い日でも、家にいる半袖姿で外に出てしまうことがあって、「あれ、外は冬だったんだ」なんてこともしばしばです(笑)。
エコハウスをデザインするには、色々条件もあるんです。窓は南向き、軒はなるべく短くして陽の光を貯める、といった具合です。ちなみに、我が家の場合、軒(のき)は本来、もう少し短くしなければエコハウスとしての機能が落ちてしまうんですが、軒があることは、この家の良さでもあります。子どもがいるので太陽の光を避けて過ごす時間を大切にしたい。その辺りは東野さんにリクエストして、いい塩梅で軒の長さを残していただけました。雨でも軒下を通れば移動できるし、子どもたちも遊べます。軒下がほどよく残せてよかったなと思っています。
勇太さん/左官、床の張り替え、壁枠の漆喰塗りなど、いろいろやらせてもらいました。それはそれは大変で… 。もう二度とやりたくないです(笑)。でも、いい思い出になったことはまちがいないです。当時1歳だった息子も作業中はずっと近くにいたんですが、いまでも「みんなでお家つくったよねー」て話をしてくれるんです。自分の家を自分たちでつくれることはなかなかできない経験ですし、息子の記憶にも残っていることが嬉しいです。
愛佳さん/私の家族も手伝いに来てくれて、文句言いながら作業してくれました。ちょうど私は妊娠4ヶ月。いい思い出ですし、塗った壁を見るとその時の記憶をすぐに思い出すことができますよ。でも、この壁(愛佳さんが作業した箇所)は東野さんたちにお願いしたらよかったかな~と思うこともあります(笑)
愛佳さん/ネットで調べたり気に入ったビンテージのインテリアを買い集めたり、古道具類はもらったものも結構多いですね。古いものからは魂を感じますから。観葉植物が好きで窓際に並べているんですがどんどん増えてしまって… 。夫からは、もう置くところがないから集めるのやめてくれ~と言われています(笑)
勇太さん/奥の部屋もまだ作業途中ですし、畑も手付かず。これからは庭でBBQしたりテントを張ってキャンプをしたり、あと隣の敷地を田んぼにして子どもと田植えもしたいですね。やりたいことはいっぱいありますが、とにかくこの景色をずっと守っていければなと思っています。大好きな景色と家族、仲間と共にこの家を育てていきたいと思っています。
始終にこやかにお話してくださった高林ご夫婦。ついつい長居をしてしまったが、取材時は3月初旬。まだまだ寒い日が続いていたが、撮影中、どの部屋へいくにも温度差を感じない。部屋の移動が全く苦にならない。当然ですが、さすがReBuilding Center JAPANが手掛けたエコハウスです。高林家が放つ穏やかな空間の中で、エコハウスの居心地の良さを初めて体験した取材となりました。ちなみに筆者の借家は築45年。冬はもちろん寒い。ストーブを焚いても焚いても寒いですw リビセンさんにリノベ依頼しようかな〜
場所:長野県茅野市高林邸
竣工:2020年
デザイン:ReBuilding Center JAPAN 東野唯史
古材:現場から出た床板、ReBuilding Center JAPAN
ライター・撮影 澤井理恵
(この記事は2021年4月取材時点の内容です)