2021.11.29

人々の暮らしの中にそっと息づく、「teltis」に流れるヒュッゲな時間。【前編】

民家が並ぶ小路を進んだ先、町工場をリノベーションした「カフェとホイスコーレ teltis」が2021年9月下諏訪町にオープンしました。裁縫したり、お茶をしながら読書したり、おしゃべりしたり。デンマークの手工芸学校で出会った唐戸友里さんと横山夏希さんが営むお店では、お客さんが思い思いに過ごしゆったりとした時間が流れています。

オーナーであり主に教室を担当する、神奈川県出身の唐戸さんと、カフェ担当で北海道出身の横山さん。人懐っこい雰囲気で迎えてくださったお2人に、一緒にお店をスタートさせるまでのストーリーや、自分たちで手を動かし作り上げた空間へのこだわりを伺っていきます。

唐戸友里さん(左)と横山夏希さん(右)
フォルケホイスコーレでの編み物の授業/写真提供: 唐戸さん

■店名に込められた思い

Q. ふしぎな店名ですね。どのような意味があるのですか?

唐戸さん/ホイスコーレって何?とよく聞かれますが、私たちが通っていたデンマークの手工芸学校フォルケホイスコーレを省略したものなんです。そこでの体験を通して、やりたいことを自分でやってみる力やどうやったらできるかを考えるクセがつきました。やれることはたくさんあるということにも気が付いて可能性が広がり、日常の小さな幸せも自然と増えていきました。「やってみよう」と思う人がもっと増えたらいいなと思い、フォルケホイスコーレのような「小さな幸せを見つけられるきっかけの空間」を目指しています。

teltis(テルティス)というのは、telt=テントとis=アイスクリームという言葉を組み合わせた、デンマーク語の造語です。テントはティピをイメージして、みんなで一緒に組み立てながら場所を作っていくという意味を込めました。アイスクリームは私たち二人の大好物という理由です(笑)

■素朴さを感じる手仕事に惹かれて

Q.唐戸さんは刺繍や裁縫を教えているのですね。昔から興味があったんですか?

唐戸さん/保育園に通っている頃から母を手伝い刺繍をしたり、小学校中学年の頃にはマイミシンで自作した洋服で登校したり、幼い頃から作ることは遊びのひとつという感じ。ワンピースを作ったけどうまくいかずに、おばあちゃんに「型紙っていうのがあるんだよ」と教えてもらい、一緒に作ったことも良い思い出です。手芸に関しては、おばあちゃんの影響が大きいですね。

おしゃれが大好きだった中学生の頃にはデザイナーになるという夢ができて、服飾系の高校、専門学校と進みました。でもそこは、流行を追い競争も激しい世界で、人間関係にも疲れてしまって。洋服が好きだったはずなのに、プレゼンをするのが苦痛になり、結果的にミシンを見るのも嫌になってしまったんです。

そこから逃げたい気持ちもあって…、自然いっぱいの場所に行きたいと思い立ち、北海道に行くことに決めました。その職場のラベンダー畑のカフェでは、各地から集まった自由に生きる人と出会ってとても新鮮でした。ひたすら作ることにしか興味がなかったけど、色んな人や世界を見てみたいという気持ちになって、海外に目が向くようになったんです。

その後は、ボランティアやウーフをして各国への滞在を繰り返すようになりました。その間は手芸から離れていたのですが、ある滞在先でおばあちゃんが機織りしているのをずっと見ていたことがあったんです。そのうちに、やっぱり自分は作ることが好きなんだという気持ちが戻ってきました。流行りを追う世界ではなく、素朴さが感じられる「いいな」と思える世界を見つけた気がして。そこからちょっとずつ、また洋服を作るようになったり、刺繍のサブスクールで講師の資格取得に励んだりもしました。

そうこうしている内に20代後半に差し掛かり、昔から抱いていた留学して学んでみたいという気持ちを思い出したんです。素朴な手芸のイメージがあった「北欧」と、学んできた「刺繍」のワードで検索してみたら、フォルケホイスコーレの中のひとつ「スカルス手工芸学校」がヒットしました。しかもその学校名には見覚えがあって、自分の好きな刺繍作家さんの出身校でもあったんです!これだ、と思って留学することを決めました。

■カフェで生まれる幸せな関係

Q. カフェを担当する横山さんも、昔から料理が好きだったんですか?

横山さん/元々小さな頃から、世界ってどうなっているんだろう?という漠然とした興味があって、高校では英語学科に進みました。昔から海外青年協力隊に興味があったりして。海外に行ってみたいからまずは英語を喋れるようにならなきゃと思っていたんです。けど、なんとなくがんばれない自分がいたり、専門性を極めた道も違う気がしたりして…。

そんな時に管理栄養士という資格を知りました。海外とは別の興味として、食べものにどんな栄養があるのかを調べたりするのが好きな子供だったんですよね。栄養士なら、衛生分野で海外青年協力隊に参加できることも分かって、そこから普通科に交じって勉強し、大学では国際栄養学を学ぶようになりました。

卒業前の時期に、海外でボランティアをしながら空き時間は観光できるというプログラムに参加してたまたまノルウェーに行くことに。特に暮らしに憧れを持つことはなかったのですが、お金を両替しちゃったから使い切らなきゃと買い物していたら、かわいい雑貨が多いことに気が付いたんです。それがきっかけで、帰国後に栄養士として働きながら、北欧について調べていくようになりました。

北欧は幸福度が高いと言われていますよね。そんな北欧の在り方に触れるうちに、それまでは「まずは人のため」と思っていたのですが、「自分の幸せを考えてみよう」という気持ちが湧いて視点が変わりました。ものは買うものでしかなかったけど、ものづくりっていいなと思うようになったんですね。そして、改めて北欧に行きたいという気持ちもあって、調べている中でフォルケホイスコーレを見つけて、行くことに決めたんです。

入学時期までに時間があって、ワーキングホリデービザを使って、ニュージーランドとカナダへの留学にもチャレンジしました。その最中、カフェに勤めた経験が今に生きていて、厳しいオーナーの指導で泣きそうになりながら働いていたけど、おかげで物事を同時に進めていく力が身に付きました(笑)そして、常連さんが多いカフェだったんですよね。挨拶だけのために来てくれたり、町で会ったら気軽に話しかけてくれたり。そんな関係が嬉しくて、カフェって良いなあと思う体験でもありました。

■デンマークでの暮らしと仲間が教えてくれた人生の楽しみ方

Q. フォルケホイスコーレでは、何を学んだんですか?

唐戸さん/フォルケホイスコーレでの体験は、驚くことがたくさんありました。裁縫・刺繍・織りなどの手工芸を学びましたが、大枠のコースがあってもやることは自分で決められます。上手にやることより、やりたいという気持ちを尊重してくれていたんですね。

日本人は「どうして何も教えてくれないの?」と戸惑っている人もいましたが、多くの生徒さんは自分のやりたいことが決まっていました。私自身、やり方がわからないこともあったけど、考えてみたらできるという喜びや、自分がやりたければいつでもできるという自由さを感じて、すごく楽しかったです。

クラスメイトと放課後のひとコマ/写真提供:唐戸さん

横山さん/私はものづくりの経験がなかったけど、自分のペースで良いっていうのが心地良くて。みんなで同じゴールを目指すのではなく、自分次第ということを感じました。一緒に学ぶ生徒さんには50~60代も多かったのですが、本当にやりたいことを生き生きとやっているんですよね。「年だから」と口にされる方もいますが、フォルケでは誰もそんなことは言いません。自分の人生を思いっきり楽しんでいる姿を見て、国籍や年齢の違いも楽しめている自分もいました。

唐戸さん/先生も個性的でチャーミングで、何よりお茶の時間が優先なんですよ!ある時、聞きたいことがあったので先生へ質問する順番待ちをしていたんです。あからさまに待っていることを態度で示していたのですが、お茶の準備ができたという合図を聴いてまっしぐらに教室を出て行っちゃいました。びっくりしたけど、微笑ましくて。周りを気にし過ぎず、見返りも求めない、そんな気持ちの良い人ばかりでした。

フォルケホイスコーレで出会った陽気な4人組とのヒュッゲな時間/写真提供:唐戸さん
みんなで町へお出かけすることも/写真提供:唐戸さん

横山さん/実は私たちはクラスが違っていたのですが、フォルケでは共同生活をするので、同じ時間を共にすることも多くありました。唐戸さんは雰囲気があっておしゃれ、技術も持っていたので本格的な人だなあと思っていました。いつもお願いして、ミシンの糸を入れてもらっていましたね。

唐戸さん/そんなこともあったね(笑)私の方は、横山さんの作るもの・着ているものの色味やセンスが良いなあと感じていて。当時は特別に仲が良かったわけではないけど、きっと感性が通ずる部分があったのかな。それでも、この時は一緒にお店をやることになるなんて、思ってもいませんでした。

後半へ続く→(coming soon)

ライター/綿引遥可 撮影/澤井理恵

【次回予告(後半)】

デンマークの地で出会った二人。後半は、フォルケホイスコーレを卒業した後のそれぞれの思いや、こだわり抜いたお店のオープンまでに迫ります。teltisで今後やりたいことについても伺いました。どうぞお楽しみに!

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