2022.02.12

LSM対談企画
リビセン × すわしん
諏訪をもっとおもしろく!デザインとお金と街づくり【前編】

LSM対談の第1回目は、諏訪市内で建築建材のリサイクルショップ「ReBuilding Center JAPAN(リビルディングセンタージャパン。略称リビセン)」を運営する東野唯史さん、諏訪信用金庫清水町支店の支店長を務める樋口廣一さんのお二人。移住者である東野さん、諏訪圏内で生まれ育った樋口さん、それぞれが諏訪という地のポテンシャルをどのように捉え、地域性を活かした街づくりをどう描いていらっしゃるのか、お二人がタッグを組んで進めてきた事業のお話も交えながら語り合っていただきました。

東野唯史(あずの・ただふみ)さん
株式会社ReBuilding Center JAPAN代表取締役。大学卒業後、空間デザイン会社に就職し、イベントの装飾デザインを担当。その後独立し、妻の華南子さんと空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」として活動。店舗のデザイン・施工・運営アドバイスを行ってきた。新婚旅行で行ったポートランドでReBuilding Centerに出会い、2016年秋にReBuilding Center JAPANを設立。

樋口廣一(ひぐち・ひろかず)さん
諏訪信用金庫清水町支店支店長。大学卒業後、地元に戻り諏訪信用金庫に就職。20・30・40 代と諏訪市内の店舗に勤務し、渉外・融資業務を担当。2020 年 7 月より現職。「為せば成る 為さねば成らぬ何事も」をモットーに、まずは行動を起こすことを心掛けている。

ReBuilding Center JAPAN(リビセン)の古材売り場

まずは二人の出会いについて教えてください。

樋口さん/最初に東野さんにお会いしたのは1年ちょっと前ですかね。僕が清水町で支店長をやらせてもらい始めたころでした。担当地区のことを知りたくて自分なりにいろいろ調べていて、メディアで東野さんのことを目にする機会があったものですから、おもしろそうな人がいるな、一度会ってみたいなと。

東野さん/何かイベントをやっていたときでしたっけ? 僕、普段あんまり店頭にいないので・・・。

樋口さん/初めてお会いしたとき、東野さんはレスキュー(解体が決まった建物から古材や古道具を引き取りに行くこと)してきた古材を下ろして作業していらっしゃいました。正直、最初は社長さんだと思わなくって・・・。

東野さん/あっははは!

樋口さん/お話しさせていただいて、この人何を考えているんだろう。今まで会ったことないような人だぞっていう印象をもちました。自分が欲しいものは自分で作る、何かが 壊れたら自分で直すという古き良き文化を取り戻そうとしていて、とても楽しそうだし、この人たくましいなと。

東野さん/あはは。最初のときのことはあまり覚えていないんですけど、次にお会いしたときに金融機関さんなので「お金を借りませんか?」という話になりましたよね。その頃、僕たちはすでに他の銀行さんで借りすぎていたから、もうこれ以上借りられないんですよとお伝えして。でも、この周りにお店を増やしていきたいから、いい空き家が見つかってそこでお店をやりたい人が現れたときにまた相談させてくださいって話したのを覚えています。

Q. そして、お二人が初めてタッグを組んで送り出したお店がお花屋さんの「olde」さんなんですよね。

olde店内

樋口さん/そうですね。昨年12月にオープンしました。

東野さんoldeのオーナーである森岡さんから諏訪でお店をやりたいと相談をもらって、場所を探していたんですが、なかなかいい物件がなくて困っていたんです。そのころちょうど樋口さんと出会って、「いい物件ないですか?」と相談したんですよね。

樋口さん/ええ。そういうお声がけをいただいて、知り合いの不動産屋さんに聞いてみたり、自分でもこのあたりを歩いてみたりして、気になる物件を東野さんにも一緒に見てもらったりしたんです。結局、物件自体は違う所に決まったんですけど、そんなふうに東野さんと動き回ったことをきっかけに、お近くなれたのかなという印象があります。

東野さん/そうですね。樋口さんは物件探しに協力してくださったし、熱心だから、融資も樋口さんに相談しようということになりました。

融資担当の樋口さん、設計担当の東野さん、オーナーの森岡さんのチーム結成ですね。
そこからどのように店づくりを進めてきたんですか?

樋口さん/まずは、森岡さんの事業計画を見せていただいて、売り上げや利益の見込みを見ながら、その計画通りに実現できそうかどうか、実際どれくらいのお金が必要になるのかということを、一緒に掘り下げていく作業をしました。でも、僕だけじゃなくて、東野さんもそのあたりに関してかなりアドバイスされていましたよね?

oldeオーナーの森岡みさとさん

東野さん/僕らも、設計を受ける前に事業計画を必ず見せてもらうんです。花屋さんを手がけるのは初めてだったから、お花屋さんの原価率っていくらくらいなの?というところから聞いていって。花は生ものでロスになりやすいので、そこをどうするか。ドライフラワーにいくらか置き換えられるねとか、成長が進んだ花をピックアップして2~3日は楽しめそうなものを周りのお店に定期便で出すっていう方法もあるねとか、うまくいかない状況も想定しながら、いろいろな道を一緒に考えて用意しておきました。森岡さんの場合は、数字では見えないくらいお花のセンスがいいから、ネット注文やニューボーンフォト、ウェディング、お店のオープン祝いのお花のアレンジもできますよというのもメニューとして作れば、店舗外収入も得ることができるよね、といった話もしました。「多分大丈夫だから、これだけのお金を信金さんから借りよう」と森岡さんと話した責任が僕にはあるので、そういった具体的なところまで一緒に詰めていくんです。

樋口さん/東野さんからの助言は、きっと、oldeさんの経営全般にわたって有効でしたよね。よく分かっていらっしゃるなあ、さすがだなあって思いました。

東野さん/結果、信金さんがすごくいい評価をしてくれて、oldeさんに想像以上の融資額を提示してくださったんですよ。僕が想定していた倍以上の額だったから、「いや、半分でいいよ」って思わず言っちゃったんですけど(笑)

樋口さん/僕が森岡さんの熱量に押されて、「ここまでやりましょう!」って勢いづいちゃったんです。でも、東野さんが「スタートはこれくらいにしたおいたほうがいいんじゃない?」って、いいブレーキを踏んでくれたんですよね。

東野さん/そう、返済がきつくなるから(笑)。結果、森岡さんが思った以上に内装などの経費がかかったかもしれないんですけど・・・。こういうお花を求める層とSNSをやる層がかなり近くて、女性が多いだろうっていうのが想定としてあって、だったらお店がちゃんとかわいくて、お花もかわいければ、店に来た人やお花をもらった人がタグ付けしてSNSでアップしてくれる可能性が高い。とすると、かかった費用が広告宣伝費みたいになってくるから、ちゃんとそこにお金をかけてかわいい店を僕たちが作れれば、お花はかわいいから大丈夫って思っていました。

『olde』外観。店舗内には別のオーナーが営むレコード店『One Record Store』も併設

もはや、信金さんはお金を貸すだけではなく、
リビセンさんも設計するだけではないんですね。

樋口さん/そうですね。「もはや」ですね、本当に。今、ご承知のように究極の高齢化社会なので、その中で我々に求められるものもだいぶ変わってきましたよね。私たちは地域と一緒に歩んでいますから、地域が衰退すれば、我々も衰退していくわけで・・・。もう、ただの金貸しということではなくて、地域のためになることであればなんでもやると、そういう信念でやっています。

東野さん/物件探しから一緒に動いてくださいましたもんね。

樋口さん/そういうところから関わっていくことが大事なんだと思います。その先に、リビセンさんやoldeさんとの関係の深まりがありましたし。お客様や地域の希望に応えることを徹底的に追求する、それが我々が大切にしているポリシーなんです。東野さんは、設計のお仕事を受けるとき、どういうところにポイントを置いているんですか?

東野さん/僕が設計の依頼を受ける際に大事にしているのは、事業が軌道に乗ってその人が食べるのに困らないかどうかというところ。そこから先どれだけ稼げるか、というのはあんまり考えていないんです。僕の中で安心感がもてる数字的根拠が出てきたらOKという感じですかね。

樋口さん/その数字的根拠というのは、結構細かなところまで計算するんですか?

東野さん/そうですね。例えば、従業員を雇うのか雇わないのか、雇わないなら1人でどれくらいの売り上げ規模までだったら回せるのかとか、じゃあこの売り上げを出すために一日平均売り上げいくらで、月何日開けなくちゃいけなくて・・・といったことを一緒にシミュレーションしていきます。また、その方が思い描いている「これから」を聞き取りながら、そのためにどういう計画が必要なのかも考えます。結婚しようと思っていて、子どもも欲しいなら、1000万円借りて営業利益20万円だと、毎月の返済で手元に8万円くらいしか残らず家族を養えない。営業利益を40万円くらいで考えて、とりあえず最初の3年は毎月手元に20万円くらい残るような計画を立てようという風に。

樋口さん/ライフプランまでを見据えて計算されるんですね!

東野さん/僕たちは、その方が「これから作るその空間でどう生きていきたいのか」を共有することを大切にしているんです。

樋口さん/なるほど。そして、そういった計算がデザインにも関わってくるのですか?

東野さん/はい。例えば、店舗売り上げだけだと足りなさそうであれば、月2回イベントをやって補填するのはどうか、そのイベントスペースも作ろうというように、収支計画を設計に落とし込んでいくんです。

諏訪で自分のお店を作りたいという人に、
お二人はどんなアドバイスをしますか?

リビセン内のカフェ『live in sense』

樋口さん/アドバイスと言いますか、私が融資をご希望されるお客様とお話しするときに重視しているのは、その方の熱意です。まずは、事業にかける思いや動機、そのお店をどうしていきたいのかといったイメージをぜひ教えていただきたいと思っています。その思いを叶えるためにお客様が必要だと考える借入希望額に対して、どう応えていけるだろうかというところからスタートするように心掛けています。まずは満額回答に応じることでできる限り早く資金面の不安を解消してもらい、次に一緒になって資金計画を具体化しながら必要額を精査していくイメージですかね。

東野さん/信金さんが他の銀行などの金融機関と大きく違うのはどういうところですか?

樋口さん/銀行さんというのは株式会社ですから、株主さんへの利益の還元が重要ミッションの一つですよね。そのために最大の利益を追求していきます。一方、我々信金は地域の方々に会員になっていただいて、互いに助け合う相互扶助の精神をもった共同組織なんです。ですから、会員の方、すなわち地域の繁栄を図りつつ適正(最適)な利益を追求しています。そこが大きな違いですね。また、銀行さんは全国規模での取引が可能ですが、我々の営業地域は一定地域に限定されているんです。つまり、諏訪地域で集めたお金を諏訪地域の発展に活かすために使っていく、ということになります。

東野さん/その視点は今の時代に合っている感じがしますよね。

樋口さん/ありがとうございます。諏訪地域で創業をお考えの方は、まずはご相談いただければ、一緒になって考えますのでご安心ください。融資の具体的なことを少し言いますと、使い道によって「設備資金」と「運転資金」の 2 つがあります。設備資金は店舗・車両や 機械設備にかける先行投資です。創業時は「こういうお店にしたい」という強い思いから 設備資金が運転資金よりも高額となる傾向があり、そこを少し抑えてスタートを切れるといいんですよね。

そういった意味で、今回リビセンさんが入ってくださったおかげで olde さんは理想的な流れだったなと思います。運転資金は仕入れや給料・家賃・光熱費など事業を軌道に乗せるために必要なお金です。果たしてどのくらいプールしておいたほうがよいのかということも、お客様と検討を重ねていきます。

東野さん/融資に関して設計を担当する僕から依頼主にお願いしていることがあって…。DIYをするには運転資金のほうが向いているので、できるだけ運転資金で借りて欲しいと伝えます。というのも、設備資金は金融機関から事業主に振り込まれるのではなくて、直接材料などを購入した先の業者さんに振り込まれるんですよね。トイレとか照明器具とかそういうのを工務店さんに一括で手配をお願いするとちょいちょい高くて、自分が想定した額と結構差が出てきちゃうんですよ。

運転資金にすれば、事業主に一旦振り込まれてそこから使えるので、自分でそれぞれの材料の価格を確かめて、ネットでポイント貯めながら買える。それに長野県の場合、創業支援融資という制度があって金利の補填があるから、設備資金と運転資金の金利が違わないんですよね。

樋口さん/そうですね、創業5年以内だったらどちらも1.1%の金利で借りられます。諏訪エリアの市町村では開業者向けの融資制度が充実していて、もっと安い金利で借りられるケースもありますね。

東野さん/これは長野県内でお店を作る人にはメリット!ぜひ知っていてほしいです。

↓【後編】はこちらから

インタビュアー/澤井理恵
ライター/中野明子
撮影/清野良江
olde写真撮影/いわさき あや

(この記事は2022年1月21日取材時点の内容です)

後編へ続く→

【後編予告】

「諏訪で何かおもしろいことを始めたい」という人の思いを全力でバックアップするお二人のお話は力強く温かく、聞いているだけでワクワクしてきます。後編では、お二人が今描いているプラン、諏訪という土地がもつ尽きない可能性に心が躍るお話がさらに続きます。

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